橘玲の世界投資見聞録 2018年10月11日

宮沢賢治も訪れた旧日本領・サハリンに
統治時代の面影はかろうじて残っているのみ
[橘玲の世界投資見聞録]

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 プーチン大統領の鶴の一声で、ロシア・ワールドカップで発行されたFAN IDの効力が年内いっぱいまで延長されたため、それを利用して9月にサハリン(樺太)のユジノサハリンスク(豊原)に行ってきた。忘れないうちに、旅の記録を残しておきたい。

 外務省の見解によると、日本は敗戦によって(北緯50度以南の)南樺太と千島列島のすべての権益を放棄したものの、最終的な帰属は国際的解決手段に委ねられている。戦後はロシアが実効支配しているが、平和条約が締結されていない以上、その帰属は未定というのが日本の立場だ。ただし北方領土と異なり、日本政府は領有権を主張しておらず、ロシアの実効支配に異議を唱える立場にないため、事実上、ロシア領であることを容認しているということのようだ。

 そのためここでは、ロシア表記を基準に、適宜、旧日本名を使うことにする。

サハリンはソ連時代はラーゲリ(収容所)として使われるだけの人跡未踏の地だった

 戦前の左翼活動家の手記を読んでいて、「憲兵に追われてソ連の亡命を決意し、国境を徒歩で超えた」という記述に出会って不思議に思ったことがある。じつは彼は船で稚内から南樺太の大泊に渡り、そこから樺太鉄道で日ソ国境の近くまで行って、国境警備の目を盗んで越境したのだ。

 1938年には女優の岡田嘉子が、共産主義者の演出家・杉本良吉とともに同じルートでソ連に亡命している。戦前まではここが日本本土で唯一の陸路の国境で、ソ連への亡命手段として利用されていた。――ただし亡命者は、スターリン治下のソ連でスパイと疑われ、ただちに収容所に送られた。

 サハリン島の面積は7万6400平方キロで、北海道(8万3450平方キロ)とほぼ同じだ。ただし主要都市は南部に集中しており、北部は20年ほど前から油田開発が始まったものの、ソ連時代はラーゲリ(収容所)として使われるだけの人跡未踏の地だった。

 サハリンは交通の便もあまりよくないため、旅行は州都ユジノサハリンスク(豊原)やフェリーターミナルのあるコルサコフ(大泊)を起点に、周辺の町を車で回ることになる。日本からは成田と札幌からユジノサハリンスクへの直行便があり、夏季は稚内‐コルサコフ間をフェリーが就航している。通常、ロシアを旅行するには観光ビザの取得に面倒な手続きが必要だが、サハリンについては簡易ビザやビザ免除の特例があるようだ。

 行きの成田空港では、ヤクーツク航空のチェックイン・カウンターで高齢者の団体といっしょになった。ほとんどが80歳を過ぎているようで、樺太で生まれたひとたちが故郷を訪れるのかもしれない。

 そんなサハリンには、いまも日本統治時代の建物が残されている。そのなかでもっとも保存状態のいいのがサハリン州立郷土博物館で、かつては樺太庁博物館だった。サハリンの自然、民族、歴史が展示されている。

日本の城を模したサハリン州立郷土博物館(樺太庁博物館)        (Photo:ⒸInvest Com)

 

 日本列島へは4万年前にシベリアから樺太経由でヒトが渡ってきた。彼らが土器を使うようになって約1万5000年前に縄文時代が始まるが、サハリン島でも多くの土器が発掘されている。それ以外でも日本統治時代の生活用品や日露戦争、第二次世界大戦で使われた日本軍の兵器などが展示されていた。

サハリンで発掘された土器     (Photo:ⒸInvest Com)
日本統治時代の展示物。剣道の面やヤマハのオルガン   (Photo:ⒸInvest Com)
日露戦争時代の日本軍の大砲    (Photo:ⒸInvest Com)
「豆戦車」と呼ばれた日本軍の軽装甲車    (Photo:ⒸInvest Com)
天皇の御真影を祀った奉安殿。小学校から移築されたもの  (Photo:ⒸInvest Com)

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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