企業が優秀な人材を採用し、彼らに生産性高く働いてもらうためには、良質な従業員体験の提供が欠かせない。それを実現するために、カフェやフィットネスセンター、保育所などを設置する企業も多いが、筆者らの調査によると、彼らは何より自然光が差し込むオフィスで働くことを希望しているという興味深い事実が判明した。


 オフィスデザインのどのような特典や要素が、素晴らしい従業員体験(employee experience)を生み出すかを報じる記事を見ると、時的な流行に左右されているようだ。たとえば、ランニングマシンを取り付けた「トレッドミル・デスク」や、昼寝用の快眠マシン「ナップ・ポッド」、あるいは「犬を職場に連れて行く日」などが頭に浮かぶ。

 だが、私が勤める人事アドバイス専門会社フューチャー・ワークプレイス(Future Workplace)が行った最新の従業員体験調査によれば、従業員が実際に望んでいるのは、より基本的な人間の要求に根差したものであることが明らかになった。

 北米の従業員1614人を対象とした意見調査の結果、職場環境に求める特徴として筆頭に上がったのは、自然光と眺望だったのだ。社内のカフェやフィットネスセンターといった「鉄板」施設よりも、社内保育所などのプレミアム特典(フォーチュン100社のうち、社内保育所を提供する企業はわずか4~8%よりも、自然光と眺望の人気が高かったのである。

 また、この調査から、自然光や屋外の景色を望めない環境が、従業員体験に悪影響を及ぼすことも明らかになった。3分の1以上の従業員が、「自然光がワークスペースに十分に差し込まない」と感じている。従業員の47%が、「自然光から閉ざされていたり、窓がなかったりするせいで、オフィスにいると疲れる、あるいは大変疲れる」と認めており、43%は「自然光が差し込まないため、暗い気分になる」と回答している。

 これらの結果は、心身はもとより人間関係や働き方まで良好であることを目指す、従業員ウェルビーイングの重要性の高まりという、より大きなトレンドを裏付けている。

 ギャラップの全米の職場環境に関する調査サイト「State of the American Workplace」の直近の調査結果によれば、従業員の過半数が、ウェルビーイング全般の改善は「極めて重要だ」と回答している。また同調査では、勤め先を選ぶときの要素として、ワーク・ライフ・バランスと全体的なウェルビーイングが2番目に重要な要素と考えられていることが明らかになった。従業員ウェルビーイングがあらゆる面で満たされている場合、従業員のエンゲージメントは向上し、その結果、各自のパフォーマンスも向上する。

 自然光が降り注ぎ、眺めのいい職場を望む気持ちは、モバイル機器の使用頻度の増加に起因している可能性もある。

 市場調査会社イーマーケター(eMarketer)のモバイル・リサーチ調査によれば、18歳以上の米国人は毎日、約4時間をモバイル機器に費やす。従業員体験調査では、従業員の73%が、「ハイテク機器の使用時間が長くなるほど、散歩をしたり、視界の開けた窓から屋外を眺めたりするといった、目の休憩をしたい気持ちが強くなる」と回答している。

 さらにコーネル大学のアラン・ヘッジ教授の研究も、自然光と従業員ウェルビーイングの関連性を強力に裏付けている。ヘッジの最近の研究から、オフィスの自然光を最適化すると、従業員の健康状態が著しく改善することが明らかになったのだ。実際、この研究結果によれば、太陽光が差し込むオフィス環境で働く従業員は、眼精疲労の頻度が51%減少、頭痛の頻度が63%減少したほか、眠気を催す頻度は56%減少した。