奨学金召し上げ事件で敗訴後も改まらない福島市の「生活保護軽視」生活保護を受給する母子世帯の女子高生が、獲得した給付型奨学金を福島市に全額召し上げられた訴訟で、今年1月、福島市は敗訴した。ところが足もとでも、福島市の体質は変わっていないようだ(写真はイメージです) Photo:PIXTA

奨学金召し上げ事件の母子はいま?
その口から出た信じられない現実

 2014年、福島市で生活保護を受給する母子世帯の高校1年生・アスカさん(仮名)が、努力の末に獲得した給付型奨学金を全額「収入認定(召し上げ)」された。生活保護制度のもとでは、他に収入があっても生活保護以上の暮らしはできない仕組みとなっている。「生活保護基準という最低ラインに届かないのなら、そこまでは国が押し上げます」というのが制度の趣旨だからだ。アスカさんの給付型奨学金の場合も、福島市は「そのお金は、生活費にあてられるべき」と判断した。単純な「保護費以外の収入」と考えたわけだ。

 アスカさんと母のミサトさん(仮名)は、多くの支援者や理解者に支えられ、福島市・福島県・厚労省に対して審査請求を行なった。福島県は福島市の判断を妥当としたが、2015年夏、厚労省は「不適切」とした。同時に、全国の福祉事務所に「給付型奨学金を収入認定しないように」という内容の通知を発行した。

 しかし、福島市は「生活保護世帯の子どもの将来を応援しなくては」という態度を全く示さなかったように見える。なお当時、「給付型奨学金は必ず収入認定すべき」という規定が存在したわけではなく、他地域には生活保護世帯の高校生が給付型奨学金を活用して充実した学生生活を送っている事例があった。収入認定する前に、福島市が厚労省に「どうしましょうか?」とお伺いを立てていれば起こらなかったはずのトラブルだ。

 並行して、アスカさん母娘は福島市に対する損害賠償訴訟を提起した。2015年春に開始された訴訟は、2018年1月に福島地裁で判決が下され、ほぼ全面的に母娘の勝訴となった。福島市は控訴しなかったため、勝訴が確定している。

 これで、福島市は考え方や生活保護の運用を変えるのではないか。私は大きな期待を抱いた。給付型奨学金の収入認定に疑問を抱いていた多くの人々が、そう考えていたのではないだろうか。しかし、勝訴から約10ヵ月が経過した現在、母・ミサトさんは「もう、ガッカリです」と語る。

「その後、変わらないどころか、さらに酷い問題が多数出てきました。特に気になるのは、“不正受給”と返還に関するものです」(ミサトさん)