「首都移転も大事なことだが、同時に考えなければならないことがある」
殿塚は森嶋を見据えた。
「道州制の導入ですか」
森嶋は言って、他の議員と大学教授に視線を向けた。
「我々は、日本が生き残るには道州制への移行しかないと考えている」
殿塚に変わり、大野が言った。
「北海道。青森、岩手、秋田、山形、宮城、福島を一つにした東北州。東京、神奈川、埼玉、千葉、群馬、栃木、茨城の関東州。愛知、岐阜、静岡、山梨、長野、新潟、富山、石川、福井の中部州。大阪、京都、奈良、兵庫、滋賀、三重、和歌山の近畿州。岡山、広島、山口、鳥取、島根の中国州。そして四国州、九州の1道7州を考えている」
「各州の経済規模が違いすぎるでしょう」
「北海道19兆円、東北州、32兆円、関東州174兆円、中部州84兆円、近畿州86兆円、中国州28兆円、四国州13兆円、九州46兆円の経済規模となっている。東京を含む関東州の経済規模はやはり突出している。名古屋、大阪を含む中部州、近畿州も十分独立してやっていける。しかし、問題はその他の州だ。しかし、東京への経済一極集中が緩和されれば、他州への流れも期待出来る」
「逆に東京への流れがますます強くなる可能性がありませんか」
「だから、首都移転も同時に考えている。当然、初期には経済的に弱い州への協力は必要だ。しかし地方分権を強めると、各州にも自立心が生まれ、今以上に真剣に産業開発、発展に力を尽くすだろうというのが我々の考えだ」
たしかにその通りだ。森嶋にも大きな異論はなかった。
アメリカは政治機能が首都ワシントンDCにある。ニューヨークには、世界金融の中心ウォール街、演劇芸術のブロードウェイがあり、世界に様々な情報を発信している。また映画産業の中心ハリウッドは、西海岸のロサンゼルスにある。さらにIT企業が集まるシリコンバレー、大学の多いボストンなど、特色ある都市が全国に散らばっている。地方の特色を生かすことで、大きな発展を遂げているのだ。
「我々は、あなたがたの進める首都移転を望んでいます。首都移転は道州制の呼び水と考えています。あるいは並行して考えるべきだと。地域の力を巨大にし、それを束ねるのが中央政府です」
殿塚は背筋を伸ばすと、強い意志を持って言い切った。
植田が大きく頷いている。
森嶋は納得した。植田が首都移転チームに参加しているのは、そのためだったのだ。
(つづく)
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