アラブ 2018年10月26日

[教えて! 尚子先生]
なぜトランプ政権でパレスチナ問題に対する姿勢が変化したのでしょうか?
~エヴァンジェリカルから知る中東政策・中間選挙~【中東・イスラム初級講座・第46回】

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エルサレムをイスラエルの首都とし大使館を移転されるなど、それまでの中東政策から明らかに方向転換をしたトランプ米大統領。その背景には何があるのか。11月6日に予定されている中間選挙を前に、日本では珍しい女性の中東研究家として活躍する岩永尚子先生がわかりやすく説明します。

 トランプ政権が成立してから、もうすぐ2年になろうとしています。来月(2018年11月6日)には、中間選挙が行なわれる予定です。

 彼が大統領に就任してから、アメリカの中東政策には、大きな変化がもたらされました。なかでも世界中で物議をかもしたのは、エルサレムをイスラエルの首都として承認し、18年5月にはイスラエル建国70周年にあわせて、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムへと移転させたことでしょう。さらに、追い打ちをかけるかのように、8月31日には、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出の中止も宣言しました。
 
 トランプ政権の中東政策、とりわけパレスチナ問題への姿勢は、これまでのどの政権よりも、明らかに親イスラエルの方針を色濃くしたものになっています。このような方針転換は、トランプの強力な支持母体であるエヴァンジェリカル(福音派)によってもたらされたのだといわれています。
 
 今回は中東政策の変化の背景となっている、エヴァンジェリカルについて解説してみたいと思います。キリスト教について私は門外漢であり、また、なるべくわかりやすく説明するためにも、キリスト教の教義や聖書の解釈については深くふれません。エヴァンジェリカルについてもっと知りたい方は、文末に参考とした主要文献を掲載していますのでそちらを参考にしてください。

プロテスタントの国・アメリカにおける変化

 アメリカは宗教の自由をうたった世俗国家ですが、建国の歴史をみればわかるように、カトリックが中心であったヨーロッパを嫌ったプロテスタントの人々によって作られた国です。そのため、現在でも宗教は依然として政治的・社会的ファクターを左右する重要な問題だといえるでしょう。
 
 私が学生だった頃に習った、アメリカの政治を左右する重要な社会集団といえば、ワスプ(WASP:White Anglo-Saxon Suburban Protestant)と呼ばれる白人のプロテスタントのエリート層でした。ですが、現在ではこの概念の重要性は低くなっており、アメリカ社会や政治を分析する際に、この概念が使われることはほとんどありません。
 
 ワスプという概念には宗派の差異は含まれていませんが、プロテスタントは大きく分けると、メインライン(主流派)、エヴァンジェリカル(福音派)、黒人教会の3つに分類することができるといわれています。現在、勢力を伸ばしているのは、エヴァンジェリカルと呼ばれる人々です。
 
 1960年から2003年までの間に、リベラルで主流派と呼ばれるプロテスタント(メインライン)の人口は2900万人から2200万人へと減少し、全人口に占める割合としては25%から15%へと劇的に落ちこみました。一方、エヴァンジェリカルはこの間に急速に勢力をのばし、21世紀の初頭には7000万人から8000万人程度まで拡大し、総人口の30%を占めるほどになっています。
 
 この数値には黒人教会が含まれていないため、実際にはこれらの数値よりも高くなることは明らかで、エヴァンジェリカルが総人口に占める割合はおよそ30~35%、約1億人と想定されています。

 エヴァンジェリカルとは聞きなれない言葉ですが、いったいどのような宗派なのでしょうか?
 
 エヴァンジェリカルとはそもそも福音、つまり新約聖書でキリストが『人間の罪を贖い救済をあたえるという「良い知らせ(good news)」』を意味しているそうです。そのため、彼らは福音派とも呼ばれます。
 
 彼らは聖書重視の姿勢をとっていますが、『アメリカと宗教:保守化と政治化のゆくえ』の著者である堀内一史氏は、著書の中で、福音派には一般的に4つの特徴があると述べています。その特徴とは
1) キリストの代理贖罪効果―キリストが人びとの代わりに十字架上で死んだことで、神の恩恵によって罪が贖われたことを信じる。
2) 個人的な救い主であるキリストとの霊的交わり、つまり回心的体験(ボーン・アゲイン体験)がある。
3) 『聖書』の記述は神の言葉であり間違いがないと信じている。
4) 福音を社会に広げたいという実行力をともなった強い意志を持つ。

 このような特徴から、福音派は実際には宗派横断的に存在しています。そのため、カトリックの福音派も少数ですが存在しているそうです。
 
 つまり、福音派とはさまざまな集団の総称であって、一つの組織であるというわけではありません。その代表的なグループとしては、南部バプテスト連盟やチャーチ・オブ・クライスト教会、アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教会、ルター派ミズーリ・シノッドなどがあげられています。

オリーブ山から見たエルサレム旧市街(Photo:ⒸAlt Invest Com)

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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