昨今、好奇心が個人や組織にもたらすプラスの影響力が注目を浴びている。企業もその重要性を理解し始めているが、実際に、従業員の好奇心を刺激・奨励するような組織環境は整っているだろうか。筆者らのアンケート調査によると、多くの経営者がそうだと信じているが、社員たちは好奇心が発揮できると感じていないことが判明した。


 好奇心はいま、「ゴールドラッシュ」のような時期を迎えている。書籍や大学の講義、学術研究によって、好奇心のパワーが世間に浸透しているのだ。

 当然ながら、組織は好奇心を持った社員を意識的に求める傾向を強めている。いくつかの人材募集ウェブサイトから抜粋した、下記の職務内容を見てみよう。

 ・「情熱と好奇心を持って可能性を追求でき、人付き合いが好きな人を募集。我々とともにミッションに取り組みませんか」(小売販売職の募集)

 ・「消費者の情報検索方法に心からの好奇心を持てる人を求めています」(データ・アナリストの募集)

 ・「この世界は進化を続けています。したがって求められるのは、好奇心と学習への情熱です」(デジタルコンテンツ・ライターの募集)

 企業が好奇心を重視する中、多くの組織が直面する驚くべき問題が、我々の研究で明らかになった。リーダーは――たいていの場合は誤認なのだが――自社の社員は好奇心を抱くよう後押しされていると思い込んでいるのだ。リーダー自身が(好奇心から生じる)質問を投げ掛けることに障壁をほとんど感じないため、社員にとっても状況は同じだと見なしているのである。

 しかし、社員は、現実はまったく異なると述べている。

 我々は1万6000人の社員と1500人以上の経営幹部を含む、合計2万3000人以上を対象にアンケート調査を実施した。多様な業種のさまざまな職位で、組織における好奇心の役割がどう考えられているかを探るためだ。

 経営幹部あるいは社長の83%は、自社で「大いに」あるいは「十分に」好奇心が刺激・奨励されていると答えている。ところが、非管理職者で同じように答えた割合は52%にすぎなかった。この隔たりの一因は、好奇心の価値に関する見解の相違であるようだ。

 経営幹部の約半数(49%)が、好奇心には給与アップという見返りがあると信じているが、そう考えている非管理職者はわずか16%だった。なんと81%もの一般社員が、好奇心は給与に実質的な違いを生まないと確信しているのだ。

 企業にとっては由々しき問題である。なぜなら、下層の社員が好奇心の価値を実感しなければ、彼らが組織に新しい情報をもたらす可能性が低くなるからだ。

 好奇心がそれほど切望され、価値あるものだとしたら、職場で好奇心が抑圧されていると感じている社員には、何が起きているのだろうか。また、雇用者はどうすればいいだろうか。

 我々の研究によると、まだ望みはありそうだ。企業とともに調査を進める中で、好奇心を高めるカギを見出したのだ。それは、アイデンティティ(自己認識)である。