消費者の関心が「所有」から「利用」へと移行しつつあるなか、急成長をとげているのがサブスクリプション企業だ。音楽・動画配信などで日本でも知られるようになったこのモデルが、なぜ伸びているのか。最新刊『サブスクリプション』(ティエン・ツォ著)の本文から一部抜粋してお送りする。

ソフトウェアの常識を塗り替えたGmailの開発哲学

永遠のベータ版にとどまれ!

 SaaSサービスを開始したソフトウェア企業には興味深いことが起こる。ユーザー登録を初めて受け付けたメディア企業にも、顧客の購買記録を追跡し始めた小売企業にも、やはり興味深いことが起こる。突然、顧客が何をしているかが見え始めるのだ!

 顧客の動きを示すデータが画面に初めて表示されたときには、得も言われぬ気持ちになる。私自身、セールスフォースで体験したその瞬間のことをいまでもよく覚えている。私たちはすぐに、もっと多くの情報が欲しいと思うようになり、そのことが私たちの意思決定の方法を変え、リソースの配分方法を変え、新しいサービスを構築する方法を変えていった。すべてがそこから変わったのだ。

 Gメールが世に登場したとき、人々は新しい種類の製品開発哲学に触れた──と私は個人的に考えている。

 2004年4月1日にGメールが初めてローンチされたとき、Gメールのロゴには「ベータ版」(BETA)の文字が添えられていた。何百万という人々がGメールを使用するためにサインアップ〔オンラインで行う利用開始手続き〕したが、それはまだ開発中のベータ版だった。

 実際、その後5年間ベータ版であり続けた。2009年7月7日まで“テスト段階”が終わらなかったのだ。なぜそんなに長くかかったのだろう。どうなった段階でグーグルは「ベータ版」という呼称を外すことを決めたのだろう。

 本当かと思う人がいるかもしれないが、それは開発チームが言うところの“完成”とは何の関係もなかった。フォーチュン500級の大企業が自社のためにGメールを買いたいと思ったとき、ロータスノーツ〔IBMのグループウェア・電子メール製品〕やマイクロソフト・エクスチェンジ〔グループウェア・電子メール製品〕などの購入に慣れていた各社の購買部門は、ベータ版プロダクトを買うことを認めなかった。そこでグーグルは考えた。「ベータ版」の文字を外せばいいじゃないか、と。