組織やチームの成果を最大化する優れたリーダーの条件として、謙虚さや正直さが挙げられることは多い。いくつもの研究が、その価値を客観的に示してもいる。にもかかわらず、ドナルド・トランプ米国大統領やイーロン・マスクCEOのような政財界の著名なリーダーたちはなぜ、かくも横柄に振る舞うのだろうか。筆者はこの疑問に対して2つの解を提示する。


『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は最近、経営関連のコラムで興味をそそる見出しを掲げていた。「謙虚なリーダーこそ最高のリーダー」というものだ。

 その記事によると、謙虚なリーダーはチーム内において「緊密なチームワーク、急速な学習、高度なパフォーマンス」を生み出すという。また、ある2人の心理学教授が「Hファクター」と呼ぶ、正直さ(honesty)と謙虚さ(humility)の組み合わせにインスピレーションを受けたある人材コンサルティング会社は、「誠実さ、控えめさ、公正さ、率直さ、気取りのなさ」といった性格的特質を含む評価ツールの発表を計画しているという。

 謙虚さを称賛するのはすばらしいことのように思えるし、事実、すばらしい。だがそれは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』の紙面に日々躍る見出しや、企業や政治文化の有り様とは相容れない。

 ホワイトハウスの現在の住人を表現するのに「謙虚」という言葉を使う人は一人もいないだろう。テスラCEOイーロン・マスクは、シリコンバレーで最も目立ち、影響力があり、インパクトの強いリーダーだが、彼よりも「控えめさ」や「気取りのなさ」のない人物を探すのは難しい。スポーツ界には、ジェリー・ジョーンズがいる。全米プロアメリカンフットボールリーグのチームで、世界一価値の高いスポーツ・フランチャイズであるダラス・カウボーイズのオーナーは、事あるごとに大口をたたくが、チームはもう20年以上、スーパーボウルの大舞台に立っていない。

 こうした現実から、当然1つの疑問が浮かび上がる。謙虚さがそれほど大事だと言うのなら、いまのリーダーたち、とりわけ有名なリーダーたちはなぜこれほど横柄に振る舞うのか。質問を逆にしてみよう。謙虚なリーダーのほうが横柄なリーダーより高いパフォーマンスを示すという強固な証拠があるにもかかわらず、あらゆる階層のリーダーはなぜ、自分のエゴを職場で抑えられないのか。

 僭越ながら、これらの難問への解をいくつか提示したい。