ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第90回は、アダム・カヘンによる『敵とのコラボレーション』を紹介する。

コラボーレーションは
「敵化」を乗り越えることから始まる

 さまざまな利害関係者が集うビジネスの現場はもちろん、長い時間をともに過ごした家庭でさえ、ともに1つのことを成し遂げる際には困難が伴う。意見が衝突する相手と働くのは日常茶飯事だろうが、その相手に嫌悪感を抱いてしまったり、信頼できなかったりしたとき、どう対応するだろうか。できるだけ距離を置くか、そもそも協働しない道を選ぶのではないだろうか。

 アダム・カヘン『敵とのコラボレーション』は、そうした異質な相手であっても、重要な課題を解決するために正面から向き合うことの大切さを説いている。人材開発分野の権威ピーター・ブロックが序文を寄稿しているが、その文章は、本書を手に取った方の感想を率直に表している。

「この本の趣旨はタイトルを見るとよくわかる。まず賛同できない人と協働(コラボレーション)せよと求めてくる。これはそう難しくない。だが、次は好きではない人と協働せよと難易度が上がる。これも何とかなる。仕事の場ではそれが当たり前なくらいだから。ところが最後は手ごわい。信頼できない人と協働せよとくる。敵と見なしている人であっても協働せよと」

 その手ごわさを象徴する筆者自身の経験として、内戦で対立が激化するコロンビアでの出来事が紹介されている。ある政治家が音頭を取り、長期化する内戦を終結させるために、コロンビアの有力者が一堂に会する場が設けられたそうだ。その際、市議会議員が同じ部屋にいた民兵指揮官を指差してこう言ったという。「私がこの男と一緒に座ると本気で思っているのか? 私を5回も殺そうとした男だぞ」

 私たちの日常生活でここまでの厳しい環境は想像できないが、信頼できない相手と働くケースはありうるだろう。そして、彼らと協働しなければ、物事が前進しない事態も十分に考えられる。筆者はそうした状況において「敵化」、その文字通り、相手を自分の敵だと見なす姿勢が、コラボレーションを妨げる最大の要因だと指摘する。

 ただし筆者は、コラボレーションが必須だとは考えていない。複雑な問題を解決するための方法には、「コラボレーション」「強制」「適応」「離脱」の4つがあり、その中から最適な方策を選択することから始まるという。

 そのうえでコラボレーション、特に敵対する相手とともに変化を促すようなコラボレーションを実行するには、「ストレッチ・コラボレーション」が必要だと説き、その実践には3つのステップをたどる。それぞれの詳細は本書に譲るが、筆者の提案は抽象度が高いものもあるが、個人の意識を根底から変えるうえでは大いに役立つだろう。