企業にとってもっとも大切なのは「お客様のほうをしっかりと見ていること」だとよく言われる。でもそのことを、目の前の保身(社長の顔色?)にとらわれて、忘れてしまいがちなのは残念なことだ。

 お客様(企業にとってはお得意先も大切なお客様には違いない)のことをそっちのけで、自社のトップの顔色ばかり気にしてしまう人って結構いるものなんだなあ、と思う。

時間厳守は自社の社長のため?
トップのご機嫌取りに走る人たち

 年に1度、とある超大手企業の「お取引先様感謝会」なるものが開催される。毎年、我が社にもその案内状が送られてくる。案内状が届くころを見計らったかのように、その会社の営業担当者から秘書課に連絡が入る。

 「いつも御社には大変お世話になっております。来月、弊社の大切なお得意様への日ごろのおつきあいに対する感謝会、ならびに今期の企業方針説明会を開催いたします。本年もS社長にはぜひともお越しいただきたいのですが、ご都合はいかがでしょうか」と担当者。

 すかさず、こちらも答える。「こちらこそいつもお世話になり、ありがとうございます。本年も弊社社長のSが出席させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」なんて具合に恒例のやりとりが交わされる。

 そう。ここまではいいのだ。でも毎年決まって、営業担当者から言われる不可解なコメントがある。

「そうですか。ありがとうございます。それではS社長にはくれぐれも遅刻されませぬようお願いいたします」

(は? 我がボスが今までに一度だって遅刻したことがあるか? なぜわざわざそんなことを言うのさ!)

 そして開催日の1週間前になると、また、その営業担当者から電話がかかってくる。

「当日はくれぐれも時間厳守でお願いします。弊社会長のTが冒頭に挨拶をいたしますので……」

(ああ。T会長が挨拶をするから遅れるな、ということね。ええ。もちろん承知していますよ)

 そしていよいよその当日、ナント! またしても電話が鳴る。

「S社長には、本日くれぐれも遅刻されませぬよう……」

(んもう! わかってるってばあ。しつこいなあ)

 当日、会場ではよほど厳密に受付がなされ、各社ごとに何時に到着したかまでチェックされているんじゃないだろうかと思った私は、帰社した我がボスに聞いてみた。

「受付のとき、何か確認されましたか」

「いや、何もされないよ。何しろ、ものすごい人数だったからね。2000人くらい来ていたんじゃないかな。出席なんて確認されなかったよ。誰がいつ来たかなんて、まったく把握できていないんじゃないか?」