2015年2015年には347億円という2001年の株式上場以来、過去最大の赤字額を記録した日本マクドナルド。どん底の状況にあったマクドナルドを、マーケティング本部長(当時)として見事に再生させた立役者の一人が、11月21日に発売されたばかりの新刊『マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す「劇薬」の仕事術』の著者、足立光(@hikaruadachi)氏だ。P&Gからブーズアレン、ローランド・ベルガー、ヘンケル、ワールドとキャリアを作っていったが、彼が転機だったと語るのがコンサルタント時代。旧知のローランド・ベルガー日本代表、長島聡氏との対談をお届けする。前編は300億を超える赤字を記録していた日本マクドナルドの再生、そして組織を「動かす力」について。(取材・構成/上阪徹)

日本マクドナルド「奇跡のV字回復」。

足立光氏(以下、足立) ちょっと前になりますが、マクドナルドの元部下にひとつ報告を受けた、とてもうれしいことがあったんです。僕は日本マクドナルドでハロウィンの仮装大会を始めたんですが、一昨年、去年とやって、僕が辞めた今年もやってくれたんです。僕がいなくなってもやってくれたんだ、と思って。

長島聡氏(以下、長島) 足立さんがつくった組織は、しっかり今も前年同月比を更新されているみたいですね。辞めた後も、ちゃんと成長が継続している。

足立 うれしいですね。

長島 当時どん底の状況だった日本マクドナルドに行く、と聞いたときは、これは面白くなるんじゃないか、と思いました。私が一番期待したのは、グローバルと違うことをやってほしい、勝手なことをやってくれないかな、ということでした(笑)。

足立 結果的にはそうなりましたかね?

長島 理由はシンプルで、我々ローランド・ベルガーも外資系だからです。足立さんは外資系であるマクドナルドに行き、ガンガン結果を出されたでしょう。これは自分も頑張らないと、と思ったんです。実は、自分の中で競争してたんです。

足立 このローランド・ベルガーの会議室とか、ぜんぜんコンサルっぽくないじゃないですか。面白そうなガジェットだらけで、あちこちの会社と提携して、本社とまったく違うことをやっていて。でも、ずっと最高益を更新されて。すごいなと思います。

なぜあんなに次々とヒットを飛ばせたのか? 長島聡(ながしま・さとし)
ローランド・ベルガー 代表取締役社長、工学博士
早稲田大学理工学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学部助手、ローランド・ベルガーに参画。自動車、石油、化学、エネルギー、消費財などの製造業を中心として、グランドストラテジー、事業ロードマップ、チェンジマネジメント、現場のデジタル武装など数多くの プロジェクトを手がける。特に、近年はお客様起点の価値創出に注目して、日本企業の競争力・存在感を高めるための活動に従事。以下の企業のアドバイザーを務める。 アスタミューゼ株式会社、株式会社エクサウィザーズ、株式会社エクシヴィ、株式会社カイゼン・マイスター、株式会社カブク、慶應SDM白坂研究室、株式会社コアコンセプト・テクノロジー、株式会社ドリーム・アーツ、株式会社GK京都、ベッコフオートメーション株式会社、リンカーズ株式会社、由紀ホールディングス株式会社。

長島 日本マクドナルドでは次々にヒットを飛ばし始めて。「次から次に、どうしてこんなアイディアが出てくるんだろう」と思って見ていました。いったい、どんなリードタイムで物事を進めているのかな、と思ったら、本を読んで分かったことですが、実はリードタイムは長いんですよね。

足立 そうです。ビジネスの規模が大きいので、何かやろうと思っても、すぐには動けないんです。食材も半年くらい前には予約しておかないと、調達ができない。

長島 となると、考えたものが形になるのが半年後とか一年後なのに、それがガンガン回っていったわけですよね。これはどうなっているんだろうと思っていました。それが、まさに本に書かれているわけですけど。
 もうひとつは、しかもそれで組織やチームがしっかりついてきていたことです。ビジネスパートナーも、みんなが結束していましたよね。広告代理店とはパートナーとして付き合う、なんて話が本にも出てきますけど、いい話でしたね。なるほど、こんなふうにして、組織やチームがついていったんだな、と。

足立 大事なことですよね。

長島 足立さんと一緒に何かをつくりあげるんだ、みたいな感覚がどんどん盛り上がっていった。でも、最初はどう考えても、日本マクドナルドの人にとっては、「何か来たぞ、変なヤツが来たぞ」みたいな感じだったんじゃないですか。

足立 それは間違いないですね。なにしろそれまでの10年間で、私が9人目のマーケティング本部長でしたからね。

なぜあんなに次々とヒットを飛ばせたのか? 足立光(あだち・ひかる)
元日本マクドナルド・マーケティング本部長/上席執行役員
1968年、米国テキサス州生まれ。一橋大学商学部卒業。P&Gジャパン(株)マーケティング部に入社し、日本人初の韓国赴任を経験。ブーズ・アレン・ハミルトン、及び(株)ローランド・ベルガーを経て、ドイツのヘンケルグループに属するシュワルツコフヘンケル(株)に転身。2005年には同社社長に就任。2007年よりヘンケルジャパン(株)取締役 シュワルツコフプロフェッショナル事業本部長を兼務し、2011年からはヘンケルのコスメティック事業の北東・東南アジア全体を統括。(株)ワールド 執行役員 国際本部長を経て、2015年から日本マクドナルド(株)にてマーケティング本部長としてV字回復を牽引し、2018年6月に退任。その後、アジア・パシフィック プロダクトマーケティング シニア・ディレクターとして、(株)ナイアンティックに参画。2016年「Web人賞」受賞。翻訳書に『マーケティング・ゲーム』『P&Gウェイ』(ともに東洋経済新報社)等。オンラインサロン「無双塾」主催。

長島 当時にマクドナルドにはうちのOBもいましたしね。(足立さんとは)合わないだろうなぁ、と思っていました。でも、そのOBも今では足立さんの信者ですから。これは凄いな、と。巻き込み力は半端ないんだろうな、という感じでしたよね。

足立 マクドナルドは私と違って、とても真面目な会社ですからね。それ自体は、ビジネスをやっていく上で、ぜんぜん悪いことじゃありません。でも、ハロウィンの仮装大会とか、そんなことをやるような素地はまったくなかったですよね。外から見ていると意外に思われるかもしれませんけど、アメリカ本社に行ったらよくわかります。
 コンサバティブでシックなオフィス。伝統的な企業ですから。でも、楽しいほうがいいし、みんなでやりましょう、とワァーッとカルチャーを変えていったんです。初出社の日にはTシャツと迷彩柄のパンツで行きました(笑)。

長島 僕が心配していたOBも、キャラクターが変わりましたからね。

足立 その方には思い切って実行部隊を率いてもらったんですよ。そうしたら、こんな数字、見たことがない、というくらい大失敗して(笑)。それですっかり、新しいキャラを確立したんですね。彼はそこからグッと変わった。だから、失敗して良かったんだと思います。

長島 そうですね。失敗したほうが良かった。こんなふうに、人を変え、人をやる気にさせる力はすごいと思います。仲間にしちゃうんですよね。カリスマみたいにして引っ張るんじゃなくて、同じ目線で同じ空気を吸って、同じ現場でやっていく、という感覚がすごくあるんだと思います。

足立 いや、ただカジュアルなだけですよ。少なくとも、教祖とかではまったくないですね。

長島 違う意味では教祖的な要素はあるかもしれないですけど、夜の帝王とか(笑)。やんちゃな足立さんの姿を知っている人もたくさんいますからね。でも、この本を読む限り、めちゃめちゃ努力の人じゃないですか(笑)。

足立 え、僕、努力の人に見えませんか(笑)。

長島 飄々としていて、人生を楽しんでいるなぁ、という印象。しかも、何か派手さや危うさはいつも漂ってます。飲んで騒いでいるイメージ(笑)。

足立 それは長島さんとお会いするのが、いつも深夜の六本木だったからかもしれません(笑)。でも、「激しい飲み会のススメ」なんてのが出てくるビジネス書はないかもしれませんねえ。