橘玲の日々刻々 2018年11月26日

元徴用工への賠償判決に関して
なぜ「韓国国民の民意はどうでもよい」のか?
[橘玲の日々刻々]

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 韓国の大法院(最高裁)が元徴用工の賠償請求を認める判決を出したことで、またもや日韓関係が揺らいでいます。1965年の請求権協定で「(強制動員の被害補償は)完全かつ最終的に解決済み」というのが日本政府の立場で、河野外相が「両国関係の法的基盤が根本から損なわれた」と批判するのも当然でしょう。

 国際政治では長らく、リアルポリティクス(現実主義)とリベラル原理主義が対立してきました。典型は核兵器問題で、リアルポリティクスの論者(大半の国際政治学者)はゲーム理論に基づき、米ソいずれも相手を確実に破滅させられる核兵器を保有する「相互確証破壊」こそが平和を維持しているとして、中途半端な軍縮交渉を批判してきました。それに対してリベラル原理主義は、こうした賢しらな論理を嫌悪し、核兵器は「絶対悪」なのだからどんなことをしてでも全廃しなければならない、と主張します。

 こうした対立は、日本では沖縄問題で顕著です。

 リアルポリティクス派は、「沖縄に負担が集中しているのは事実だが、中国・北朝鮮の軍事的脅威や日米安保を考えれば、住宅街にあって危険な普天間基地を辺野古に移設する以外の選択肢はない」という立場でしょう。それに対してリベラル原理主義は、「沖縄のひとたちが“基地はいらない”といっている以上、普天間も辺野古も認めない」と主張します。リアルポリティクス派にとって、民意はものごとを決めるひとつの要素にすぎないのに対し、リベラル原理主義では、「民主主義では民意こそがすべて」なのです。

 私個人は、この世界が完璧なものでない以上、利害の対立するやっかいな問題はリアルポリティクスで対処するほかないと考えますが、そうはいっても「理想」になんの価値もないと切り捨てることもできません。そんな軟弱な人間から見ても、韓国批判一色に染まる日本国内の反応は異様です。

 韓国のメディアのなかには日韓関係の悪化を危惧するものもあるようですが、各紙とも一面トップで大法院の判決を歓迎しています。韓国国民の大多数が、今回の判決を支持していることも間違いないでしょう。すなわち、韓国の民意は「元徴用工に賠償すべきだ」ということで一致しています。

 それに対してリアルポリティクス派は、「沖縄の民意と同様に、韓国の民意も考慮する必要はない」と一貫した主張ができます。しかし日本では、「国家と個人が対立したら個人の側に立つべきだ」とするリベラル派まで、元徴用工に寄り添った判決を否定し、韓国の民意を「国民情緒法」などと揶揄しているのです。大法院の判決で日韓関係が揺らぐのが問題なら、辺野古への移転に反対して日米関係を危機にさらすことも同じように問題でしょう。

 私の疑問は、「沖縄(日本人)の民意は大切で、韓国(外国人)の民意はどうでもいい」というのは、外国人差別ではないか、というものです。それとも、沖縄の民意は正しく、韓国の民意は間違っているという決定的な理由があるのでしょうか。

 どなたか、私の誤解を解いていただければ幸いです。

『週刊プレイボーイ』2018年11月12日発売号に掲載

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は、『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論』(朝日新書) 。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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