総理はデスクの上の書類にちらりと目をやった。急きょ、届けさせた首都移転チームのメンバーの資料だ。まだ半分も目を通していないが、意外なことに大半をキャリアが占め、それも各省庁の精鋭が集められている。秘書に問い合わせさせると、全て村津の要望だという答えが返ってきている。

 首都移転を提案した国交省の森嶋という男も入っていた。この男は2度にわたり、アメリカからの特使の通訳をした男だ。キャリア官僚としてはユニークな男だった。

「展望の見えない仕事か。たしかに気の毒なことをしたのかも知れない。政治家の思い付きや無思慮な決定で、優秀な官僚の生涯を潰すということはあってはならないことなのだが」

「そこまで憂慮しておられるなら、政府として今度のチームはどういう位置づけなのです。私も知っておきたい」

 村津が総理を見すえて言った。

「首都を東京以外の場所に移すなどということが、実際にできるのかね」

 総理は村津の問いには答えず、逆に問いかけてきた。

「そのために組織されたチームではないのですか」

「たしかにそうだな」

 総理は自分に言い聞かせるように頷いている。

「ところで、首都移転というのはどのくらいの時間がかかるものなのだ」

 村津は一瞬、考え込んでいる。確かに一番気にかかるところだろう。