1999年、約4000億円もの不良債権を一気に処理した伊藤忠商事。意気消沈する社員と、疑心暗鬼にかられる取引先や株主を説得・鼓舞して業績回復に導くことができたのは、丹羽宇一郎会長(当時は社長)のコミュニケーション力に負うところが大きかったのだ。

伊藤忠商事 丹羽宇一郎会長
伊藤忠商事 丹羽宇一郎会長

 ある米国の学者が、「コミュニケーションは見た目が5割、声や気迫が4割、話す中身はたった7%」と言っていましたが、僕の体験からしても、これは真実ですね。

 見た目といってもハンサムという意味じゃない。目ですよ。視線が落ち着かないのはダメ。情熱や気概が伝わらないのもダメ。話す中身にも、そりゃあこだわらないわけじゃないけれど、人は長々と言われても忘れてしまう。

 僕だって、その昔は上司の部屋に呼ばれても、退出してドアを閉めた途端に、話の内容のほとんどは忘れてた(笑)。自分がそうなんだから、みんな同じですよ。ごちゃごちゃ言わず、シンプルなのがいい。

 「もっと稼いでもらわないと予算がうんぬん」じゃなくて、「カネだカネ!」とか、「君のこれこれこういうところがよくない」より「バカヤロウ」のほうがわかりやすいじゃないですか。

 ただし、「バカヤロウ」には愛を込める。同じ「バカヤロウ」でも、愛のあるなしでは伝わり方がまったく違うんです。部下が必死にやった仕事を冷たく否定しちゃいけない。管理職時代、僕は部下を叱ったあとは、数日中にメシに誘ってフォローするようにしていました。自分の真意が相手に伝わらなければ、コミュニケーションにならないですからね。

丹羽の話は、とにかくわかりやすい。理路整然と格好をつけるのではなく、「短い言葉でいいからわかりやすく」を強く意識しているからだろう。そのほうが相手に深い印象を与えるし、伝わるものも大きい。なるほど、さすがは人間力の達人である。

コミュニケーションで問われるのは
人間力そのものだ。

 コミュニケーションの万能薬なんてものがあったら、見てみたいですね。うわべだけで「こう言えばいい」みたいなものではなく、人間力そのものが問われると思うからです。