ビジネスの成否は「交渉力」にかかっている。アメリカの雑誌で「世界で最も恐れられる法律事務所」に4度も選ばれた法律事務所の東京オフィス代表であるライアン・ゴールドスティン米国弁護士に、『交渉の武器』(ダイヤモンド社)という書籍にまとめていただいた。本連載では、書籍から抜粋しながら、アップルvsサムスン訴訟を手がけるなど、世界的に注目を集めるビジネスの最前線で戦っているライアン弁護士の交渉の「奥義」を公開する。

生き残る「弱者」は、<br />「点」ではなく「線」で考える

「戦い」を避けるべきときもある

 強者との交渉には、覚悟が必要だ。
 そのためには、交渉が決裂しても「自分の目的」を達成する選択肢をもっておくことが不可欠である。それさえあれば、相手がどんなに強者であっても、「不本意な譲歩」を強いられることはない。

 しかし、もちろん、それが不可能なときもある。
 私のもとにも、そのような立場に置かれた人々からの相談が持ち込まれる。
 たとえば、下請け企業だ。世界的なブランドを確立している大企業から仕事を受注しているが、毎年のように発注価格の減額を求められる。これ以上減額に応じていたら、赤字転落も近い。しかし、相手は圧倒的な強者。減額要求を拒めば、発注を取りやめると一歩も引かない。

 しかも、下請け企業の受注額の大半は、その大企業からの仕事が占めているため、発注を取りやめられると間違いなく倒産する。それでは、「交渉決裂カード」は使えない。減額要求を飲む以外に選択肢はないのだ。このような場合に、「戦い」を挑むのは無謀と言うべきだろう。