「あの日の翌日、ユニバーサル・ファンドは日本に対して戦争をしかけるはずだった。銃やミサイルを使った時代遅れの戦争じゃないぞ。経済戦争だ。いや、すでに様々な方法で小競り合いは始まっていた。しかし、状況が一変したんだ。まず東京で、銀行、証券会社、証券取引所さえが機能停止に陥った。そしてその影響は、日本全国に広がっていった。BCP、つまり事業の継続、早期復旧を可能とする手段、方法が確立され、バックアップ体制は整っていたと信じられていたんだが」

 ロバートはかすかに笑った。

「彼らは慌てただろうね。このままの計画でいいのか。もう一度、計画を練り直すべきか。東京がここまで脆弱だとは、彼らにとっても想定外だったんだ。だから日本政府が彼らの意図を察して、地震を利用して金融機関を停止した、そしてその間に対抗策を練っている、と疑ったのかもしれない。最大の危惧は、もう一度近い内にさらに巨大な東京直下型地震が起こるという情報だ。だから再度計画を練りなおす方を選んだんだ。いずれにしても日本は、時間をもらった。ゴッド・タイム。神の時間。神が与えたもうた時間だ」

「皮肉なことだな。地震に救われるとは」

 ロバートが森嶋の反応を確かめるように見つめている。

(つづく)

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