「このまま、今の会社にいて大丈夫なのか?」
ビジネスパーソンなら一度は頭をよぎるその不安に、発売2ヵ月で10万部を突破したベストセラー『転職の思考法』で、鮮やかに答えを示した北野唯我氏による人気連載。今回のテーマは、「他己分析」と「自己分析の限界」について。

「何者かになりたい」という欲求

「若くして成功したい」

「何者かになりたい」

向上心の強いビジネスパーソンなら一度は考えたであろう、この「何者かになる」というテーマ。

有名人になりたい、とか、大金持ちになりたいというばかりではなく、何かしらの領域で成果を出したい、自分の実力が認められたい。こういう類のものも含めると、一度ぐらいは頭をよぎったことがあるのではないでしょうか。

前回の記事では、大人こそ年末には自分のキャリアを棚卸ししたほうがいい理由を述べました。今回は、少し視点を変えてこの「何者かになりたい」というニーズに対して方法論を考えていきたいと思います。

年末年始に、自分のキャリアを振り返るきっかけになれば幸いです。

何者かになりたければ「他己分析」から始めよう北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。2018年6月に初の単著となる『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』を出版。2019年1月17日には第二作『天才を殺す凡人』(日経新聞出版社)を発売予定。

自己分析には「差別化」の観点がない

多くの人が、自分が何者かになるために、まずやることといえば、自己分析ではないでしょうか。

これは方法論としては正しく、まさに自分が求めているものや、得意なことを知ることは重要です。

しかし、自己分析には決定的な弱点があります。それが「差別化の観点がないこと」です。つまり、自分の強みや、得意なことはわかったとしても、それが「コモディティではないか?」「世の中からはどう見えるのかどうか?」などの視点がない、ということです。

たとえば、ここにひとりの学生がいたとします。彼は自己分析した結果、「誰か目標に向かって頑張っている人を、横に寄り添いながら応援すること」に喜びを感じるのだと理解しました。心の底から喜べるのです。これが彼の得意で好きなことだとしましょう。

では、これをそのまま伸ばしていったとして、彼は「何者か」になれるのでしょうか?

答えは恐らくノーです。

なぜなら、差別化の視点がないから。「同じような強みを持った人」は山ほどいるからです。正確にいうと「認識されるほどの差別化ポイント」がないからです。

そもそも、「何者か」になるためには、強みを持つこと以上に、その強みがきちんと世の中から認識されていることが重要です。

どれだけ、ボールを遠くに飛ばせる技術があったとしても、野球の試合に出ない限り、世の中からその才能は認識されません。

その意味で、仮に「他者を応援する能力」がずば抜けていたとしても、それを他者が認識できる機会がなければ、世の中的には「何者か」にはなれません。当たり前の話です。

つまり、言い換えれば「何者か」になるためには、

1. 何かしらの独自性を持つ

2. その強さが世の中から認識されること

の2つが必要だということです。

そして「何者か」になるために、実は一番難しいのは、この「世の中に認識されること」です。特に、代表作が生まれるまでのプロセスをしっかり理解していないといけません。

20代、30代に作った「佳作」こそ大事な理由

偉大な「何者か」になった人には必ず、何かしらの「代表作」が存在します。その人を何者かに伸し上げたのは、その「代表作」が世に知られたからです。

ですが、それよりもっと重要なのは「佳作」の存在です。

私は美術館が好きなのですが、ほとんどの偉大な画家の作品には、必ずといっていいほど佳作が付随しています。

佳作とは、代表作を作る前の実験台であり、いずれ大作を生み出すための下地ともなる作品です。私は美術館に行くたび、この佳作の存在に惹きつけられます。

なぜなら、佳作ほど、価値にねじれがあるものはないと思うからです。世の中からの価値と、作り手からの価値は大きく異なります。

たとえば、私が執筆し、2ヵ月で10万部のベストセラーとなった『転職の思考法』にも実は沢山の佳作がありました。具体的には、ボツになった10万文字の原稿があります。ストーリー形式が反響を読んでいる『転職の思考法』は、もともとは、通常のノウハウ書形式だったのです。

ですが、私にとってこの10万文字は「佳作」であり、作品を作るために必要なプロセスでした。

そして、これはキャリアも同じです。重要なのは「佳作の存在」なのです。

代表作より「佳作」も踏まえて、キャリアの棚卸しをしよう

冒頭の質問に戻りましょう。もし、

「何者かになりたい」

とあなたがもし思ったなら、やるべきことは2つです。

1.あなたが目標とする人が社会に認知された「代表作」はいつ、何歳のときに世に出たか

2.その代表作を生み出すための、見えづらい「佳作」はいつ出され、どれぐらいの数あるのか?

こうやって、あなたが理想とするキャリアを歩んでいる人を分析するのです。その人が、20代のときどんなことをしていて、30代のときどんなことをしていたのか、それを調べて洗い出す。

そのうえで、時代背景の変化や、あなたの強みと照らし合わせて、自分のキャリアを設計していくのです。

何が言いたいのか?

「何者か」になりたいなら、あなたが憧れる人が残した「佳作」にこそ、ヒントがある、ということです。より詳しくは『転職の思考法』を片手に、ぜひ、年末年始だからこそ、あなたのキャリアを一緒に棚卸ししましょう。