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イノベーターのための問題解決法

設計をリフレームする:
潜在レベルの問題に焦点を当てる

白根英昭 [大伸社取締役]
【第4回】 2012年5月25日
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i-phoneが日本で発売されはじめた2008年の7月、3ヶ月以内に携帯電話を購入する計画のある309名の男女に「次に買いたい操作方法・形状の携帯電話」について聞きました。そのとき「タッチパネルのストレートを買いたい」と答えた女性は何%だったでしょうか?

2008年7月24日の日本経済新聞によると「タッチパネルのストレート」と答えた女性は5%以下。ちなみに「折り畳み型のキー操作」と答えた女性は70%以上でした。人間は基本的に保守的な生き物で、見慣れないものを拒絶する心が無意識のうちに働いてしまいます。i-phoneのようにまったく新しい製品に対する考えを消費者に直接聞いても、本当の答えは得られないのです。

『心脳マーケティング』の著者であるジェラルド・ザルトマン教授は、従来のマーケティングアプローチについて、6つの誤った使用理論をあげています。

1消費者の思考プロセスは筋の通った合理的・直線的なものである
2消費者は自らの思考プロセスと行動を用意に説明することができる
3消費者の心・脳・体、そして彼らを取り巻く文化や社会は、個々に独立した事象として調査することが可能である
4消費者の記憶には、彼らの経験が正確に表れる
5消費者は言葉で考える
6企業から消費者にメッセージを送りさえすれば、マーケターの思うままにこれらのメッセージを解釈してくれる

 創造的なアプローチによって飛躍的なイノベーションを起こすためには、まずわたしたち自身が暗黙のうちに使っている理論や前提を意識化し、その限界を理解することが必要になります。

製品ではなく顧客の隠れたゴールに焦点を当てる

 市場を把握し、イノベーションの方向を定義したら「具体的に理解する」モードに移ります。改善や改良では、製品そのものに焦点を当て、顧客が求める機能や品質、スペック、デザインなどについて調べます。しかし、人間中心イノベーションが重視するのは、製品がどうあるべきかではなく、顧客の本当の欲求や願望は何か、ということです。

 ここでは、顧客の本当の欲求や願望を3つのレベルのゴールのセットとして捉えます。ひとつは具体的なゴール。顧客が具体的に達成したいこと、得たい結果のことです。具体的なゴールは、顧客が求めている具体的な到達点をわたしたちに教えてくれます。次に感情レベルのゴール。顧客は何かを経験するとき、必ず何らかの感情を抱いており、それが意思決定や行動に大きな影響を与えています。顧客がどんな気分になりたいのかを捉えたのが感情レベルのゴールです。

 そして意味レベルのゴール。顧客の長期的な願望や理想の状態を表したものです。感情レベルのゴールが刹那的なのに対して、意味レベルのゴールは長く持続する性質があります。顧客と企業との長期的な関係は意味レベルのゴールを通して結ばれます。

 図を見ていただくとわかりますが、現状の製品の便益や属性と顧客のゴールの間が切れています。もし現状の製品の便益や属性と顧客のゴールの間がつながっていれば、現在の製品の延長上で顧客の欲求や願望を満たせばよいということになります。飛躍的なイノベーションでは、現状の製品の延長上では顧客のゴールを満たすことはできないと考えます。逆にいえば、いかに現状の製品やサービスが満たせていないゴールを設定するかがポイントになる、ということです。

 

 顧客のゴールを捉えるために、製品そのものではなく、製品のまわりで営まれる顧客の活動に焦点を移します。まず、製品に関わる周辺の活動へと視野を広げます。購入、使用、メンテナンス、保管、修理、廃棄まで、直接的な用途の範囲を超えて、製品に関わる活動全体を捉えます。それにより顧客が本当に困っている問題を理解します。

 さらにテーマによっては製品が直接関わらない領域まで範囲を広げます。顧客にとって自社の製品は、顧客のゴールを達成するためのいくつかの手段の一部でしかありません。顧客の活動全体をより大きな視点で捉え直し、顧客の本質的なゴールを理解します。

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白根英昭 [大伸社取締役]

1963年大阪生まれ。1988年大伸社に入社。2002年にペルソナやエスノグラフィー等のデザインリサーチに基づくイノベーションサービスを開始。2004年より同社m.c.t.事業部取締役。一橋ビジネスレビュー(2007年) 、 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(2010年) などに寄稿。2008年から 関西の産官学共同によるソフト技術者の養成塾で講師を担当。ペルソナ&カスタマエクスペリエンス学会理事。

 


イノベーターのための問題解決法

イノベーションを意図的に生み出すのは簡単なことではない。どのようにすれば組織的に、繰り返しイノベーションを生み出すことができるのか。エスノグラフィーの活用による人間中心イノベーションに、ひとつのヒントがある。この連載では、エスノグラフィーを使って問題をリフレームし、飛躍的なイノベーションへと結びつけていく方法を紹介する。

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