経理を進化させる「引継ぎ」とダメにする「引継ぎ」の違いビジネスシーンのなかでも、あまり注目されない“引き継ぎ”という業務。しかしこれを怠ると、経理部の仕事は回らなくなる恐れがあります(写真はイメージです) Photo:PIXTA

注目されない経理業務の「引き継ぎ」
部下任せではマネジャー失格

 大方の企業では、部署ごとに業務マニュアルが整備されています。その中で所属の部署の役割や業務1つひとつについての手順などが明記されているでしょうが、それらをまじまじと見つめながら業務を進めるのは、新人の頃くらいです。

 経理部員に限らず、多くの社員らは仕事や周囲の人間関係に慣れると、マニュアルを紐解く機会が少なくなると共に、そこでの職場環境がごく日常になるので、担当業務の意義や役目について突き詰めて自身に問い直す場面が少なくなります。

 そうなると、後任者に業務を引き継ぐ場が訪れた際、伝票入力の方法や承認の受け方、ファイリングの仕方といった表面上の手順ばかりにウェイトを置いた方法になりがちです。職務の意義や繋がりといった核となる部分が端折られた状態で引き継がれてしまう危険が生ずることもあるでしょう。

 今回は、ビジネスシーンのなかでも、どちらかと言えばあまり注目されない“引き継ぎ”に焦点を絞り、これまでの方法を振り返ってもらいながら、人材育成なども視野に入れた有効な方法論を説いていきます。

「私にとっても部下たちの仕事内容について、じっくりと触れるいい機会になりましたよ。案外、非効率なところも見つかってね……。お陰で、より良い方法を再考して、後任者にバトンタッチできそうです」と語るのは、中堅企業の経理マネジャー(50代女性)です。

 部下の父親が病気で倒れたため、地元に戻らなければならなくなり、部下がやむなく退職することになったとのこと。父親の容態が悪化しないうちに地元に帰れなければならないため、後任者を急募して業務の引き継ぎを済ませたそうです。このマネジャーは、部下がこれまで当たってきた業務を大方把握して、これまで本人がやりづらかった点をすくい上げ、効率の良い方法に改善した後に、無事後任者にバトンタッチできたそうです。