なぜ、一流のプロは「演じる」のが上手いのか写真はイメージです Photo:PIXTA

拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。第61回の講義では、「技術」に焦点を当て、拙著『人は、誰もが「多重人格」 − 誰も語らなかった「才能開花の技法」』(光文社新書)において述べたテーマを取り上げよう。

人格は「変える」のではなく「育てる」

 この連載においては、これまで、人は誰もが自分の中に様々な人格を持っており、それらの人格を意識的に育てていくならば、自分の中から、様々な才能が開花していくことを述べた。そして、そのためには、「多重人格のマネジメント」の技法を身につける必要があることを述べた。

 しかし、この「多重人格のマネジメント」を行おうとするとき、大きな壁となるのが、我々の多くが、自分の「人格」や「性格」について、「親から受け継いだものだから、仕方がない」や「生まれつきこうだから、変えようがない」という「強い固定観念」と「自己限定の意識」を抱いてしまうことである。

 たしかに、現実には、自分の「人格」を変えることは、それほど容易ではない。永年の「生きてきた環境」「出会った人間」「与えられた経験」によって形成された現在の人格は、やはり強固であり、それを簡単に「変える」ことはできない。

 では、現在の人格を変えられないとすれば、どうすればよいのか。

 現在の人格を「変えよう」とせず、別の人格を、自分の中に「育てる」ことである。

 例えば、前回述べたように、筆者は、高校生の頃、「話下手の人格」が中心的人格であった。しかし、現在は、永年かけて自分の中に育ててきた「プロフェッショナル話者の人格」が中心的人格になっている。

 しかし、これは、筆者の中の「話下手の人格」が消えてしまったわけではない。実は、いまも、「恥ずかしがりで、人前に出るのを避けたがる人格」は自分の中にいるのだが、現在では、あまり表に出てこないし、表に出さないようにしているだけである。

 逆に、筆者の中の「プロフェッショナル話者の人格」は、最近では、中心的人格として振る舞っているが、実は、これは後天的に育ってきた人格である。

 そして、筆者は、この「プロフェッショナル話者の人格」が、自分の中で、初めて顔を出し、育ち始めた瞬間を、鮮明に覚えている。