私たちはあまりに多くのものを食べ、
土壌にとって持続不可能な方法で栽培を続けている

神保 ということは、現在の食の危機は人為的なものと言っていいのですね。

ロバーツ そのとおりです。成功をもたらしたのは人であり、今その犠牲になっているのも人です。私たちはあまりに多くのものを食べている。土壌にとって持続不可能な方法で栽培している。すべて私たち自身がやってきたことです。私たちは、何か問題が起きたときに、それだけを取り上げて考える癖がついてしまいました。

 たとえば「人口が増えたからもっと食べ物が必要だ。それならもっとたくさん食べ物を作ろう。食のシステムを工業化すればいい」と考える。それがどんな影響を及ぼすかは問わず、「問題:よりたくさんの食べ物が必要。回答:食システムの工業化」としか考えなかったのです。

 数十年たった後、肉の産出量を増やすために抗生物質を使ったことが重大な結果をもたらしたことを私たちは理解するのです。そして、あらゆることが関連しあっていることを知っておくべきだったと思うかもしれません。ここに最大の問題があります。食のシステムが他のあらゆるシステムとどのようにつながっているのかを理解することです。

 これはまさに人為的な問題と言えます。他のこととの結びつきに目を向けようとしないのは、不都合だからです。見なかったことにする。食に限らず持続可能なシステムをいかに確立するか、これは本当に大変な課題です。

神保 これからわれわれが食の危機を乗り越えていくためには、何が必要で、それはどのようなプロセスを経ることになるのでしょうか。

ロバーツ 繰り返しますが、食の状況だけを考えれば、たとえば食品価格が上昇したとすれば、市場が反応するでしょう。感染症が爆発的に広がると対抗策がとられるように、私たちには問題を認識してこれに対処する力があります。残念ながら、状況が限界まで達しないと動かないというのが人類の性ですが。大金が手に入る、あるいは大損をするということになると、人はシステムの変更に着手するものです。

 つまり、ある意味で食のシステムには自分で解決する力があると思います。難しいのは食のシステムを政治システムと結びつけて考えたときであり、変化を望まず、現状を維持するために投資している人々のことを考えたときです。農業者を抱えた米国や日本や欧州では現在の政府による保護システムを変えるのはとても困難です。当然ながら、保護の対象に不適切な食料生産を行っている農業者が含まれている事例も多いのですが、農業者はこうした政府を支持していますから、どこでこれを転換すべきかの判断はとても難しいのです。