海外と気仙沼を結んで走り出すMaruのプロジェクト

 前回、新しい魚の食文化を見出す試みとしてドライフード・ラボを紹介した。このプロジェクトを運営する母体組織が、一般社団法人Maru協会だ。海を介し、世界の地域と繋がってきた気仙沼。この気仙沼のアイデンティティからインスピレーションを得て、船名の末尾に付く「丸」をその呼び名に選んだという。

 英語にもRoundtrip(往復)と言う言葉があるように、人は旅路を円に例えることがある。「丸」とは、まさに船の旅路への安全と豊穣の祈願だ。

スケールアウト型イノベーションが<br />日本の地域を救う船名につく「丸」には込められた願いがある

 Maru協会の前身となる、東京大学i.schoolの有志チームは当初、「気仙沼に新しい仕事をつくる」ことを目的として活動していた。気仙沼で、地元の方に話を聞き、ワークショップを重ねるうちにいくつか実践に結びつくアイデアが生まれたが、一方でその実現に限ってしまえば経済的・社会的インパクトは小さく、持続性に乏しいと考えるに至った。

 そして方向転換のカギとなる興味深い事例と出会う。それが「スローフード」だ。スローフードは1986年、イタリア北部ピエモンテ州のブラという街で始まった、その土地の伝統的な食文化や食材を見直す運動だ。

 今やこの活動に参画する人は世界で10万人を超え、参加する地域コミュニティも2000を数える。これらの地域は共通の理念・精神のもとに結びつき、その相互作用の中から食文化を通じて交流し、新しく、かつ持続的な地域産業の創出に一役買っている。

 Maru協会のメンバーはこの4月、スローフード発祥の地であるイタリアへ飛び、ミラノ工科大学の学生たちや、イタリア半島の“靴底”と呼ばれるバジリカータ州のトラムートラで生活を営む人々とともに、地域の価値について議論した。イタリアの地方は、QOLを求めて都会の人間誰しもがまた来たい、移り住みたいと言うほど豊かで、メンバーはそこに暮らす人々の誇らしげなさまを目の当たりにし、驚きを隠せなかった。

 そして現在、ドライフード・ラボをはじめ、イタリアの一地方都市であるトラムートラと日本の気仙沼を結ぶいくつかのプロジェクトが走り始めている。