株式レポート
5月24日 18時0分
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下値が見えない相場にどう対処するか PART2 - 広木隆「ストラテジーレポート」

幼稚園に通う娘から訊かれた。
「パパ、『馬鹿』って、なあに?」
「相手に何かを伝えるとき、簡単に済むことでも、わけのわからない長ったらしい文章を書いたり、高邁な理論を持ち出したり、複雑な計算式などを交えて説明しようとして、結局何が言いたいのか相手に伝わらなくなってしまう人のことだよ。わかったかい?」
「わからないよ、パパ。」


投資理論の世界では生起確率というものがよく出てくる。例えば、投資の期待リターンなどを決定する際にシナリオ別にリターンを予想し、生起確率(実現する可能性)で加重平均して投資のリスク・リターンを計算するものだ。でもこれは実際的ではない。



司令官が戦場に兵を率いる場合、そんな兵を割るような戦術は実際にはない。シナリオは幾通りも考える。様々なケースについてのリスクも考える。しかし最終的に下す判断、すなわち兵を進める方向はひとつだ。投資でいうなら、買うか買わないか、ポジションを持つか持たないかである。但し、そのポジションの持ち方は工夫によって巧拙がある。

これまでさんざん、理屈、理論、ロジックが大切と述べてきた。ここらで現実的な話をしよう。

先日更新したマネックスラウンジ「投資の潮流」でもご紹介したが、「小さく賭けろ! 世界を変えた人と組織の成功の秘密」(ピーター・シムズ著 滑川 海彦・高橋 信夫 訳)という本がある。著者ピーター・シムズは「変化が速い今の時代、机の前で大きなプロジェクトを計画しても決して成功できない。成功している人と組織は、アイデアをすぐに実践している」として、スターバックス、アマゾン、ピクサーなどの例を挙げ、成功した企業は「小さく賭けて、素早い失敗、素早い学習」というリトル・ベッツ方式を繰り返しているという。

リトル・ベッツ、すなわち「小さな賭け」である。なぜ「小さな賭け」が良いのか。ピーター・シムズ氏はこう説明する。「『小さな賭け』では、アイデアから実践までが短期間で済むので、やり直しがきく。小さな失敗なので痛手も小さい。逆に、『素早く失敗』して、ユーザーのニーズを『素早く学習』できる効果は絶大だ。」

いいと思ったらとりあえずやってみる。で、だめなら諦めてすぐ撤退する。小さな賭けなので痛手も少ないが、傷口が広がらないうちにすぐ軌道修正する、というのもポイントである。これはまさに拙著「ストラテジストにさよならを」のなかで筆者が述べていることと同じである。

第9章「正しい長期投資は『売る』ことである」から引用しよう。

投資において何より大事なことは「大負けしないこと」である。長期投資とは同じ銘柄をひたすら長く保有し続けることではない。長期間、運用し続けることである。マーケットから退出しないことだ。そのためには一度の失敗ですべての投資資金を失ってしまうことを避けることが大前提となる。

これまでの株式投資では、「Buy & Hold(バイ&ホールド)」と言われる方法が広く採用されてきた。将来上がりそうな銘柄を探し出し、一度買ったらあとは長期間、持ち続けるというものだ。しかし、このやり方が山のような塩漬け株を生み出してきた。

株式投資で儲ける方法を教えよう。それは安値で買って高値で売ることである。「馬鹿にするな」と怒られそうだが、絶対的な事実である。「そのためにはどうすれば良いか」については、「これだ」という絶対的なやり方があるわけではない。これまで述べてきた通り、幅広く世界情勢を視野に入れた大局観のなかで、企業業績の動向とバリュエーションなどの評価尺度を用いて安値・高値を捉える努力をしてもらうほかはない。一回でうまくいくとは限らない。何度か挑戦するうちに安値で買えるかもしれないし、高値で売れるかもしれない。

「そんなことを聞くために、この本を買ったんじゃない!」とお怒りの読者もおられよう。しかし、ここに本書の重要なメッセージがある。何一つ確かなことがないのが相場の世界。絶対うまくいくやり方なんてない。だからこそ何度もトライするのだ。ポイントは何度もトライできるようにしておくことである。そのためには、細目(こまめ)に売ることである。
(広木 隆「ストラテジストにさよならを」幻冬舎ゲーテビジネス新書)


お断りしておくが、ここでは短期トレーディング志向の方を念頭に置いていない。ここでお勧めするのは中長期の投資家を対象とした方法である。これまでのレポートでも述べた通り、トレーディングでは「落ちてくるナイフ」をつかもうとすることは禁物である。「落ちてくるナイフをつかむな。床に突き刺さったのを抜け」とはトレーディングにおける逆張りの危険性を表した有名な言葉である。資金効率を優先させる短期トレーディングではトレンドフォロー戦略が有効である場合が多い。ここで筆者が述べるようなやり方では、トレーディングの効率が悪くなる。

相場の底値は買えない。高値は売れない。だからこそ、取引のタイミングを何回かに分散させるのだ。下げ相場で何回かに分けて買いを行えば、大底では買えなくても結果として「底値圏」で投資できる可能性が高い。ファンダメンタルズから - 例えばPERやPBRを基準として – 割安と判断したとする。自分なりに買いの目途を決める。チャートポイントでもテクニカルでもいいだろう。但し、チャートやテクニカルというのは極めて根拠の薄い判断基準でもある。自分が決めたエントリー・ポイント(相場に入る点)が底値であるなどと初めから思わないことだ。二の矢、三の矢を継げる準備をしておこう。イメージを図1に表した。直線がフェアバリュー(理論値)である。それより下に株価が下がれば買いのチャンスだ。×のところで買いを入れ、結果として大底のAでは買えないとしても「底値圏」で投資することはできるのだ。



ここで重要なことはAはどこか?などと探らないことである。大底はどこか、と探って分かるものではない。相場の大底は後で振り返ってはじめて、「ああ、あそこ(=A)が底だった」と分かるものだ。投資家に見えるのは今、目の前の市場でついている株価だけである。それと(目に見えない)理論上の価格(図の直線)との乖離に着目するべきだ。その広がった乖離が次に収束する過程で得られる利益を、自分が取れるリスクの大きさとの兼ね合いで測って、投資するか否かを決めればよい。





もう少し正確に図を描けば、フェアバリューは細い線ではなく、ある程度の幅がある太い線で表すべきだろう。ある一定期間における株価の値動き、その振幅の幅を100としたとき、株価がフェアバリュー(理論株価)のベルトゾーンに収まっているのは20くらいだろう。前回のレポートで揶揄的に「壊れた時計も1日2回は正しい時を指す」と書いたが、フェアバリューだってそんなものである。株価が理屈で説明できる価格帯に滞留している時間なんて、せいぜいそんなところだろう。しかし、株価変動のわずか2割しか説明できない理論(値)がなぜ大切なのか?前出の著書「ストラテジストにさよならを」のなかで引用した楠木先生の言葉を掲載しよう。(先生には本当におんぶにだっこだ。)

「ストーリーとしての競争戦略」の著者・楠木建氏はこう述べている。「ビジネスの成功を事後的に論理化しようとしても、理屈で説明できるのはせいぜい二割程度でしょう。(中略)理屈で説明できないものの総称を『気合い』とすれば、現実の戦略の成功は理屈二割、気合い八割といったところでしょう。あっさりいって、現実のビジネスの成功失敗の八割方は『理屈では説明できないこと』で決まっている。(中略)八割は理屈では説明がつかないにしても、ビジネスのもろもろのうち二割は、やはり何らかの理屈で動いているわけです。『ここまでは理屈だけれど、ここから先は理屈じゃない』というように、左から右へと考えてみて下さい。すると、『理屈じゃないから、理屈が大切』という逆説が浮かび上がってきます。(中略)野性の嗅覚が成功の八割にしても、二割の理屈を突き詰めている人は、本当のところ何が『理屈じゃない』のか、野性の嗅覚の意味合いを深いレベルで理解しています。」

つまり理屈を突き詰めることが重要なのは「ここから先は理屈じゃない」と言えるようになるためである。理屈と「理屈でないもの」との境目をはっきりさせること、それが分かるということは、投資の世界に置き換えれば「割高割安」の判断を下すことができるということである。くどいようだが、底値の水準を当てに行くのではない。目に見えるのは今市場で実際についている株価だけだ。それが割安なのか割高なのかを見る(判断する)ことが大切である。壊れた時計と同じように、株価は全体の値動きを100とすれば、たった20程度しかフェアバリューに留まっていない。しかし、重要なことは必ずそこへ、フェアバリューに戻ってくるということだ。

投資資金には限りがある。というよりも、予め投資資金の総額(バジェット)を定めておくべきである。だから、取引を分散させるということは必然的に「小さく賭ける」ことになる。小さく賭けることの効能は、すでに述べた通りだ。いいと思ったらとりあえずやってみる。それで、だめなら諦めてすぐ撤退する。小さな賭けなので痛手も少ないが、傷口が広がらないうちにすぐ軌道修正する。投資で言えば「いいところだ」と判断したなら、まず買ってみる。そして間違った、まだまだ下値があると判ったらすぐに投げる。損切る。小さく賭けているから損失も知れている。一方、それほど下値がなさそうなら持っていてもいい。含み損も大きくないので耐えられる。

ここで大変重要なことを述べるのでよく聞いていただきたい(よく読んで肝に銘じていただきたい)。

引かされること(間違うこと、損すること)を覚悟して細かく投資する。結果として「まあまあいいところ」の底値圏で買えたとしても、それまでに払った損切りのコストなどを考えれば、最終結果はそれほど大きな利益にはつながらない。

投資とは、そういうものなのだ。大儲けなんかできるものではないのである。欲張ってはいけないのである。証券会社の旗振り役、ストラテジストがそんな夢のないことを言っていいのか!もっと投資家を力づけるような話をしろ!と怒られるかもしれないが、「夢を見るなら別のところで見てください」と申し上げる。相場で夢なんか見てると大怪我につながるからである。

野球で言えば、1番バッターから9番バッターまで全員がフルスイング、バットをぶんぶん振り回す野球チーム。見ていて面白いのはそういうチームの野球だろう。当たればホームラン、だけど圧倒的に空振りする率が高い。それと対照的なのが、バットを短く持ってコツコツ当てにいくような野球。ランナーが出れば決まって送りバントだ。こういう野球はつまらない。しかし、勝つのは後者である。トーナメント方式ではその限りでないかもしれない。しかし、年間に100試合以上行うペナントレースのような方法で覇を争うとすれば、勝つのは、そういうつまらない野球をするチームである。ホームランばかり狙っては勝てないのである。

男子プロゴルフツアーのブリヂストン・オープンが開催される千葉県の名門、袖ヶ浦カンツリークラブ・袖ヶ浦コースの16番パー5。左ドッグレッグのコーナーに「御神木」とされる注連縄(しめなわ)が巻かれた3本杉が立っている。プロは、みなショートカットを狙ってその「御神木」の上を越える弾道で打つが、素人がそのような真似をすると大怪我すること請け合いである。

ランナーはバントで送る。つまらない野球。ロングホールはレイアップする(刻む)。つまらないゴルフ。そして投資は小さく賭ける。一発、ピンポイントで底値買いを狙わない。何度もベットできるようにする。だめだと思ったらすぐ投げる。小さな損が積み重なる。だから最終的にトータルでは大きな利益にはつながらない。しかし、大やられもしない。たいして面白みのない話である。スリルを味わうために投資をするという人は筆者の話を無視していただきたい。つまらなくても、大損するよりいい、と思う方は、ぜひ実践されたい。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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