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欲張らない投資術② 高配当利回りポートフォリオ(アップデート) - 広木隆「ストラテジーレポート」

前回のレポートでは、相場の地合いが変わってきた気がすると述べた。下値は固まりつつあるように思えるが、欧州債務懸念で上値も重く、買い進む手掛かりが見えない。このまま6月17日のギリシャ再選挙まで不透明さが払拭できず、相場も膠着感の強い展開が続くかもしれない。但し、繰り返すが株価水準自体は相当割安である。前々回のレポートで提唱したように、どこが底値かは当てられないが、何回かに細かく分散して打診買いを入れていって良い水準だろう。

前々回のレポート「小さく賭けろ」の骨子は、欲張らない投資スタンス、である。ホームランばかりを狙ってもうまくいかない。相場の大底をピンポイントでつかもうとするとやられる。小さく賭けること、間違ったと思ったらすぐ投げることが大切だとして、筆者の著書の一節を引用した。それは「ストラテジストにさよならを」の第9章「正しい長期投資は『売る』ことである」の部分であった。

筆者は著書や、このストラテジーレポートなどでも「売ること」の重要性を常々説いているが、その一方で「高配当利回りのポートフォリオは売らずにずっとバイ&ホールドで持っていて良い」と述べた(2012年2月22日付レポート「高配当利回りポートフォリオはバイ&ホールドでよい」)。それはなぜか?そのレポートから引用しよう。

【配当利回りを享受する目的で組んだ高配当利回りポートフォリオはバイ&ホールド(買い持ち)が基本。株価の変動を理由に売る必要はない。

なぜか?現在の日本株式市場はバリュエーション的に割高感がない。別の言い方をすればフェアバリュー(適正な株価水準)にあると考えられる。銀行は別だが他の銘柄は業績面でも特需に頼って異常な稼ぎ方をしているわけではない。このくらいの業績は普通に稼げて株価も割高な水準にないということは、ここで買って仮に株価が下落したとしても、買値に戻るチャンスはいくらでもあるということだ。いつかは戻るとすれば、株価は気にしないでいい。

著書ではこれと反対のことを述べた。以前のように右肩上がりの相場トレンドが期待できない以上、株価をいつも注意深くモニターし、上がったらところは着実に売るべきであると書いた。想定が外れ一定以上に株価が下がったら損切りをして別な銘柄に乗り換えるべきであると説いた。キャピタルゲイン(値上がり益)を狙う投資法はそうすべきだろう。現在のようにバリュエーション面での割高感がない時に行う投資ならば、下がったとしてもいつかは戻るのは高配当株でなくても同じことだ。しかし、キャピタルゲイン狙いの場合は戻りを待つのと他の銘柄に乗り換えるのと、どちらがリターンを得られるかという確信度と資金効率が判断基準になる。一方、高配当株投資の場合は、その銘柄を外して他に代替があるか、をまず考えなければならない。重要なのは株価変動より配当の変動性である。株式の取得額は変わらないのだから減配リスクがないなら保有を継続し高利回りを享受するべきだ。

唯一のセル・ディシプリン(売却基準)は、期待する水準の配当が払えなくなるような悪材料が出た(あるいはそのような事態が予想される)場合のみである。その場合は株価が買値を上回っていようと下回っていようと、すぐに売るべきである。その判断には将来の株価予想は介在しない。売る理由はただひとつ。「高配当利回りを享受する」という投資目的に合致しなくなったからである。震災直後の東京電力などはその典型例であった。これは非常にシンプルで明快な投資方針であり、規律的な運用ができる。】

先週土曜日の日経新聞でも高配当株への投資が取り上げられた。「東京株式市場で投資家が予想配当利回りの高い銘柄への買いを増やしている。業績が海外の景気変動などの影響を受けにくく、減配の可能性が低そうな銘柄を慎重に選んでいる。債務問題に揺れる欧州ではギリシャの再選挙など6月にかけ重要な行事が相次ぐため、株式相場が弱含むとの見方も多い。予想配当利回りの高さに注目し銘柄を決める動きは続きそうだ。(5月26日付日本経済新聞「Forecast」)

ただ、ここでの日経の着目点は、読んで分かる通り、高配当利回り株が買われている、という点だ。つまり高配当株はこれからも「買われます」、よって「値上がりするかもしれません」、という論調である。それはそれで正しい見方だろうけれど、筆者のここでの主張はあくまで「配当利回りを享受する」というのが目的だから株価変動は考えない。たとえ値下がりしたとしても、この水準で投資すれば、破綻さえしなければ株価はいくらでも戻ってくる。そういう堅い投資先がごろごろしている。マネックス証券のサイトで、東証1部、時価総額3000億円以上、配当利回り3.5%以上、PER 20倍以下というスクリーニング条件で検索したのが次のページの一覧だ。



NTTやドコモ、薬品、大手銀行、大手商社などの優良企業に投資して5%前後の配当利回りが期待できる。少し利回りは下がるがキヤノン、HOYAなども狙い目だ。「欲張らない投資術」と言ったが、ゼロ金利の日本で為替リスクなしでこれだけ回れば、かなり欲張ったほうではないか。相場が下振れして下値が見えにくくなっている今だからこそ、相場の底はどこか?と血眼になって見定めようとするより、短期的な株価変動を気にせず、配当利回りに着目したポートフォリオを組むことをお勧めしたい。

前回は、高配当の優良株に加えて、J-REITへの投資もお勧めした。分散投資の観点からオフィス、住宅、商業施設のトップ銘柄を挙げた。今回はそれに加えて、もうひとつ別なセクター、物流施設等へ投資する産業REITをお勧めする。産業ファンド投資法人(3249)である。(略称IIF: Industrial & Infrastructure Fund Investment Corporation)

株価は、ご覧の通り、右肩上がり。この相場でもほとんど崩れず、高値圏にある。しかも上場来高値である。それでいて、予想分配金利回りは5.4%(!)である。この軟調相場のなか株価が高値追いの上昇トレンドにあって、利回り5%超という破格の銘柄だ。



REITというのは、簡単に言えば、不動産の大家である。家賃収入がすべてだから、鍵になるのは店子がちゃんと入っていて稼動しているかどうかという点だ。だから同社のホームページの右肩にある「IIFデータ」の欄をみると、保有物件22件、取得価格合計1455億円などという情報の一番上に「稼働率」が示されている。保有するインフラ施設、物流施設の稼働率は昨年末時点で99.9%とフル稼働である。

米系不動産サービス会社、シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の延べ床面積約3万3000平方メートル以上(つまり1万坪以上)の54施設の3月末の空室率は4.5%。昨年12月末から0.7ポイント低下し、2005年3月末(2.9%)以来7年ぶりの低い水準だ。近畿圏(大阪府、兵庫県)の11施設の空室率は、昨年12月末は2.9%だったが、今回の調査では募集がない空室率0%(!)である。首都圏のオフィスの空室率が過去最悪の高さ(ガラガラの空き状態)であることと比べると天と地の差である。

背景はネット通販の増加である。アマゾンやゾゾタウンを運営するスタートトゥデイなどに加えて、7&アイやイオンなどの小売もネット通販に力を入れている。そうした企業が翌日・当日配送や事業エリアの拡大を進めている。その結果、港湾地区などにある小規模の従来型倉庫から大型施設にニーズが移っているのだ。大型物流施設は首都圏や近畿圏に全国の約8割が集中しており、ネット通販会社や家電量販店が都市部向けの配送拠点として借りている。これが物流施設の大家である産業ファンド投資法人の堅調さの一因と考えられる。

産業ファンドのみならずREIT全般に期待して良いだろう。4月26日付レポート「渋谷ヒカリエと日銀の金融緩和」でも述べたが、国債バブルの果てに行き場に困った緩和マネーはやがて不動産市況へ流入するだろう。その匂いを敏感に嗅ぎ取っているのは筆者だけでない。読者におかれても先日の新聞報道はご存知のことだろう。

<米ゴールドマン、日本で再び不動産投資、4年ぶり、1000億円
海外投資家が日本の不動産への投資を拡大する。米ゴールドマン・サックスは2008年の金融危機以降、4年ぶりに日本の不動産投資を再開する。今夏に専用のファンドを立ち上げて年金基金などから資金を募り、都心のオフィスビルなどに投資する。投資額は千億円にのぼる見通しだ。>
(5月25日付 日本経済新聞 朝刊 )

ゴールドマンだけではない。米大手投資ファンドのTPGキャピタルも日本の不動産市場に本格参入、米不動産投資会社のラサール・インベストメント・マネジメントも日本向け投資を増やすと報じられている。なにも外国人投資家の判断がすべて正しいわけではないが、利に聡い連中であることは間違いない。こうした動向も踏まえておくと、REIT投資の自信につながるだろう。「勝ち馬に乗れ」という言葉がある。果たして、彼らが勝ち馬になるかどうかは分からない。しかし、リスクのとり方は参考にできる。外国人不動産プレーヤーは、こういうタイミングでリスクをとってくるものなのだ、と覚えておこう。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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