昨年11月15日、安倍晋三首相は臨時閣議の中で、「法律で定められた通り、2019年10月に(消費税を)10%に引き上げる」と打ち出した。そして、前回(14年4月)の8%への増税時における経験を生かし、(今回は)あらゆる施策を総動員して経済に影響を及ぼさないように全力で対応するとしていた。

 こうした流れの中で、『「10%消費税」が日本経済を破壊する』は、8%から10%への消費増税が本当に実施されるならば、日本経済は壊滅的な大打撃を受けることになると謳(うた)い、消費増税の凍結を提案する。具体的には、10%への消費増税が日本経済に打撃をもたらす理路を明らかにする。さらには、批判ばかりでなく、消費税に代わる他の税制政策や、日本が目指すべき社会保障の設計を提示する。

 第1章では、前回の8%への増税により、どれだけ庶民が貧困化したかを詳しく述べる。第2章では、消費増税が日本を衰退途上国に転落させた姿を描く。第3章では、次回の10%への増税のダメージは極めて深刻になるとし、第4章で消費増税を凍結した後の経済政策プランとして、税と社会保障の在り方を改めて考える。最後の第5章では、日本経済の問題は既に集団心理学、精神病理学の問題であると指摘した上で、日本経済・財政の再生戦略として新たに3点ほどの改革案を提案する。

 かねて、内閣官房参与の著者は、日本経済の正常化のためには何よりもデフレーションからの脱却が必要であり、そのためには財政出動が必要であると一貫して主張してきた。本書でも、消費増税でかえって借金が増えるとし、デフレの今こそ積極財政によって税収を増やすべきだと説く。さらに、消費減税と法人増税、所得税の累進性強化をパッケージとする格差是正・税制改革の可能性を訴える。

 とりわけ、評者が興味深く感じたのは、「生活経済大国を実現するための未来投資」を10項目挙げている点だ。また、日本中で未曽有の大災害が連発する中で、強靭化投資は特に重要な喫緊の課題として強調する。もし、政府が10%への消費増税を断行するならば、政府は超大型財政政策の中長期的な継続が不可欠と喝破する。

 もっとも、こうした特例国債の発行を増やす主張については賛否両論があろう。しかし、本書では法人増税や、所得税の累進性強化以外にも、過剰医療の抑制を通じた社会保障の合理化も同時に推進することが必要だと踏み込む。

 本書は、可能な限り特例国債の発行を抑制する、真の意味での税と社会保障の一体改革についても、明確な道筋を詳述している。

(選・評/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト 永濱利廣)