オバマ大統領就任からほぼ2か月が経った今も、欧米の金融システムは緊張状態から抜け出せず、世界経済は危機脱出の糸口すらつかめずにいる。米国では失業率が8%を突破、中国でも大量解雇などで労使間の対立が尖鋭化し、各地で暴動が頻発している。当初は比較的傷が浅いと思われていた日本も昨年10-12月期は速報値で12.7%のマイナス成長に沈んだ。ただ、現状を、「百年に一度の危機」という表現で嘆くことは簡単だ。危機はなぜ起き、どうすれば乗り越えられるのか。新たな世界秩序はどうあるべきか。そして、日本の果たすべき役割とは何か。英エコノミストロンドンの元編集長で現在は国際ジャーナリストとして活躍するビル・エモット氏と、小泉政権時代に構造改革を推進した竹中平蔵・慶応大学教授が、世界そして日本の針路を縦横無尽に語り合った。その対談の一部始終を三回に分けて掲載する。

ビル・エモット
「今年の世界経済はマイナス成長に転落する」(ビル・エモット)
Bill Emmott 国際ジャーナリスト 英国エコノミスト誌で、93年から06年まで編集長を務める。日本のバブル崩壊を予測した著書『日はまた沈む ジャパン・パワーの限界』(草思社)がベストセラーに。『日はまた昇る 日本のこれからの15年』(草思社)、『日本の選択』(共著、講談社インターナショナル)など著書多数。

竹中:議論の大前提として、この質問から始めたい。あなたは、今年の世界経済の成長率をどれくらいになると想定していますか。

エモット:ご存じのとおり、IMF(国際通貨基金)の1月の予測では、2009年の世界経済の成長率見通しは0.5%でした。ただ、IMFの予測に関して重要なことは、彼らがこれまでに何度も見通しを下方修正しているという事実です。今回が最後の修正とはならないでしょう。まだ修正はある。しかも恐らく何度もです。予測値がマイナスに転落する可能性は極めて高いと思います。

 地域別に言えば、日本と欧州、そして米国が現在想定されている以上に大きな落ち込みを見せ、新興国でも成長は予想以上に鈍化することになるのではないでしょうか。

竹中:私も、先進国経済に限れば、ほぼ同じ見通しを持っています。大方の国の成長率はマイナス、あるいは深刻なマイナスになるでしょう。ただ、重要な論点はインドと中国の成長率をどう予測するかです。

 たとえば、2007年の世界経済の成長率は4.4%でしたが、その成長率に対する寄与はBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)が2.2%であり、先進国はわずか1%でした。

竹中平蔵
「中国の成長が7~8%ならば、世界経済は深刻な事態には落ち込まない」(竹中平蔵)
Heizo Takenaka 慶応大学教授・グローバルセキュリティ研究所長 1951年和歌山県和歌山市生まれ。一橋大学経済学部卒。日本開発銀行などを経て慶大教授に就任。2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣。02年金融担当大臣も兼務。04年参議院議員当選。05年総務大臣・郵政民営化担当大臣。

 先日、中国や香港を訪れたのですが、現地での見方はこうでした。香港の成長率は恐らく大きくマイナスになるが、中国本土は6%から8%の成長は可能だと。もしも7%や8%の成長が本当に持続可能ならば、世界経済はさほど深刻な事態には落ち込まないはずです。

 多くの人は現状を指して“百年に一度”の危機だと叫んでいますが、本当にそうなのでしょうか。(大恐慌の最中だった)1932年の米国経済は13%のマイナス成長でした。IMFの1月の予測によれば、米国経済の今年の成長率見通しはマイナス2%以内です。

 いずれにせよ、私は新興国経済の行方については、さほど悲観的ではありません。