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連載経済小説 東京崩壊
【第35回】 2012年6月4日
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高嶋哲夫 [作家]

偉大な道楽

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【前号までのあらすじ】
森嶋とロバートの2人は、帝都ホテルに宿泊しているユニバーサルファンドのジョン・ハンターとアルバート・ロッジの動きを見張っていた。2人がフロント前から姿を消すと、ロバートは森嶋をドライブに誘った。行先は葉山にあるお屋敷。
そのリビングルームには5人の男が座っていた。2人は外国人で、残りの3人は日本人。日本人の1人は経団連の副会長。外国人のうちの1人は、格付け会社インターナショナル・リンクCEOのビクター・ダラスだった。
ダラスは東京が災害に弱い都市だと指摘し、日本国債の格付けを一気に3段階下げるつもりだという。日本では今後、東海、東南海、南海地震という連動する可能性が強い巨大地震が発生するリスクがある。その経済損失は81兆円以上にもなるという。その時、同時に東京が大きな被害を受けたらどうなるか? 世界が受けるダメージは、ギリシャ危機やリーマンショックの比ではないという。
1時間ほど話したあと、森嶋とロバートは葉山を離れ東京に戻った。ロバートは急きょ中国へ行くことになりホテルで森嶋と別れた。森嶋がタクシーに乗ると村津から電話があり呼び出される。六本木の長谷川設計事務所へ行くと、落ち着いた書斎風の部屋には、村津、長谷川、そして2人の男がいた。日本最大のゼネコンとIT企業のトップだった。


第3章 

7

 森嶋と早苗はドアの前に立ったまま、部屋の男たちと向き合っていた。

 「座ってくれ」

 村津が2人に言った。

 「新日本建設の室山勇次郎社長と、ユニバの玉井忠治社長だ」

 村津が森嶋に紹介した。早苗はすでに2人とは知り合いらしく、その場の空気に溶け込んでいる。ここでも森嶋だけが浮き上がっていた。

 「昨日、きみと別れてから官邸で総理と会った」

 「首都移転の話ですか」

 「他になにがある。だから集まってもらった」

 村津は長谷川たちに視線を戻した。

 「総理は本気だ」

 村津は低いが強い意志を込めた口調で言った。

 森嶋は村津の言葉をかみしめた。総理が本気で首都移転を考えている。しかしどうしても実感がわいてこない。

 他の者たちの表情に大きな変化はない。すでに聞いているのか。

 「数日中には正式に発表される」

 村津はたたみ掛けるように付け加えた。

 首都移転が現実のものとなる。今度は、村津の言葉が森嶋の胸にしみこむように響いてくる。

 「やはり、先日の東京直下型の地震が原因ですか」

 「それもある。しかし、それだけが原因ではないだろう」

 村津は含みのある言い方をした。

 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

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