企業の本質は組織である。というわけで、組織のあり方をみればその企業の本音も分かる。CSRの現実も分かる。大多数の日本企業においては、CSR部門は総務や広報の中に組み込まれている。これはCSRが経営戦略やマーケティングと統合されていないことを意味している。

 もちろん、CSR部門のあり方はそれぞれの企業が独自に決めればよい。しかし、成長戦略としてのCSRを考える場合、その機能は総務や広報に属するものではないことは誰だって分かるだろう。現実に、総務や広報にCSR部門が置かれていることによって、CSR部門がその企業の中核となる部署とうまく連携できないというケースも数多く見られる。

 昨今では、ほとんどの企業が「本業を通じたCSR」を標榜しているが、その本業の中核、すなわち主力事業部に対してCSR部が何も関われないという企業も多いだろう。そもそも総務や広報に、事業やマーケティングに口出しできる権限や機能はほとんどない。

 だから成長戦略としてのCSRを目指す場合、CSR部はやはり社長直轄の独立した部署とするか、経営企画やマーケティング部と統合させるべきだと私は考える。今回はその意味での先進的な事例をご紹介する。

業界のイメージを変えたい。
マルハンの挑戦

 まずは経営企画部がCSRを担当している事例。パチンコ・チェーン大手の株式会社マルハン(以下、マルハン)である。ちなみにマルハンでは、広報も経営企画部が担当している。

 マルハンは1957年に創業。最初は、京都府峰山町に名曲喫茶「るーちぇ」を開店。翌年、同じく京都府峰山町にパチンコ店を開店。以後、拡大を続け、現在はパチンコホールを中心に、ボウリング場、映画館、ゴルフ練習場、アミューズメント施設、飲食店などを擁する総合的なエンタテインメント企業となっている。

 創業者で現代表取締役会長の韓昌祐(ハン・チャンウ)氏はもともとメセナ活動、慈善活動に熱心だったのだが、2007年の創業50周年を機にもっと会社としての姿勢を示していこうということで経営企画部がCSRを推進することになったという。

 ハッキリ言ってパチンコ業界のイメージは良いものではない。ギャンブル、借金、ネグレクトなど負のイメージが纏わりついている業界である。そんな業界の最大手企業が行なうCSRには、どうしてもトレード・オフ的な言い訳CSR、いわゆるグリーン・ウォッシュ、ブルー・ウォッシュ的なCSRではないかと思うかもしれない。しかし、マルハンのCSRはそうではない。なぜ、経営企画部がCSRなのか――。

 それは「われわれは社会にとって必要とされる存在になりたい」という強い意思の現れである。負のイメージが強いパチンコ業界を変えていく。パチンコ業界を社会にとって必要なものに変えていく。そのためには、経営戦略とCSRが一体化する必要があったのだろう。

 たとえば、2010年には全席禁煙のホールを東京都昭島市に出店。昨年は大阪・なんばにも出店した。タバコ臭いというパチンコ店のイメージを払拭すると同時に、受動喫煙を防ぐという効果もある。なにより、筆者の世代からすると全席禁煙のパチンコ店の出現自体が、パチンコ業界も変わったことを強くイメージされる。このような施策の実施は、経営企画とCSRが一体化されていなければ難しかっただろう。