ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
経営のためのIT

守りと攻めの「両利きの経営」が、
日本企業の未来を拓く

内山悟志[ITR会長/エグゼクティブ・アナリスト]
【第90回】 2019年3月15日
著者・コラム紹介バックナンバー
previous page
5
nextpage

ビジネスモデルを変革する

 「探索」の領域では、これまでと異なる発想が求められる。従来の事業で提供している製品・サービスの価値を、新しい事業・顧客層に提供する領域(図1の右下)では、ビジネスモデルを転換するなどして、これまでと異なる市場にアプローチしなければならない。例えば、これまで法人顧客のみを対象としていたサービスを一般消費者にも広げるといった顧客ターゲットの変革、購読料金モデルを広告モデルに変えるといった収益源の変革、代理店経由の間接販売をネットによる直販に変えるといった販売経路の変革によって、これまで対象と考えていなかった顧客層を取り込むことが可能となる。

 例えば、事務機器やコンピュータを販売する商社である大塚商会は、「たのめーる」というオフィス用品通販サイトを通じて、これまで営業の手が及ばなかった中小企業や地域にまで顧客のターゲットを広げることができた。SNSやビッグデータを活用したデジタルマーケティングによって新たな顧客層へ訴求を行ったり、販売チャネルを変革したりすることによって新たな市場を開拓することが期待されている。

 この領域でのイノベーションでは、これまでの延長線上の戦略ではなく、市場を切り開くような大胆な発想の転換が必要となるだろう。その方法としては、企業戦略の立案やマーケティングのフレームワークで用いられる3C(顧客、競合、自社)および4P(商品、価格、プロモーション、流通)を変えてみる発想を持つことが有効である(本連載79回「イノベーションの発想は過去の成功体験を捨てることから」)。

新規ビジネスを創出する

 新しい事業・顧客層に新しい価値を提供するためには、全く新しい製品やサービスを生み出したり、ビジネスそのものや市場を創り出したりすることが求められる(図1の右上)。ここでは、まさに「探索」の組織能力が問われる領域といえる。デジタルビジネスの世界では、デジタル技術の特性を活かした新しいビジネスモデルが多数生み出されている。プラットフォームビジネスや、ネットを活用してモノの共有を促進するシェアリングエコノミー、ブロックチェーンを活用した仮想通貨などがそれにあたり、新たな市場や業態を形成している。

 個人向けの資産管理・家計管理アプリを提供するマネーフォワードは、レシートの自動読み込み、クレジットカード会社や銀行との口座連携などによって一元的にお金を管理するサービスを提供している。疑似体験型エンタテイメント施設として池袋に開設されたファーストエアラインは、ファーストクラスでの搭乗体験や、VR技術を活用してニューヨークやパリの街を上空から見下ろしたり、人々が行き交う街並みを歩いてみたりでき、まるで実際に旅行に行ったような体験を提供している。食品大手の日清食品ホールディングスは、JR東日本と協力してICカード乗車券Suicaの利用履歴データを活用した経費精算サービスを開発し、これを他の企業に販売するという新規事業を立ち上げている。

 このように、これまで実現できなかったような体験を創出したり、従来と全く異なる分野で事業を起こしたりすることがデジタル技術によって可能となっている。

 この領域でのイノベーションは、未知の領域への挑戦となるため非常に不確定要素が多いことから、試行錯誤と頻繁な軌道修正が求められ、リーンスタートアップの考え方を取り入れることが推奨される。

previous page
5
nextpage
IT&ビジネス
クチコミ・コメント

facebookもチェック

内山悟志[ITR会長/エグゼクティブ・アナリスト]

うちやま・さとし/大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストととして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。2019年2月より現職。


経営のためのIT

日々進化するIT技術をどうやって経営にいかしていくか。この課題を、独立系ITアナリストが事例を交えて再検証する。クラウド、セキュリティ、仮想化、ビッグデータ、デジタルマーケティング、グローバル業務基盤…。毎回テーマを決め、技術視点でなく経営者の視点で解き明かす。

「経営のためのIT」

⇒バックナンバー一覧