私たちの毎日は、個人、家族、友人、仕事、社会などのあらゆる局面で問題に溢れている。これらのうち、例えばダイエットや定期的な運動のような個人の問題に限り、自らがしっかりした問題の理解、優先順位、計画、強い意志を持って実行すれば解決できる場合が多い。

 だが、その他のほとんどの問題は、何らかの意味で他人との協働が必要となる。その協働作業を、賛同できない人、好きではない人、信頼できない人とせざるを得ない状況が、今日ますます増えているというのが、本書の立場である。

 著者は、南アフリカやコロンビアなどで困難な政治・社会状況を改善させるファシリテーション(集団活動の支援)を成功させた有名な社会活動家だ。自身の経験から、コラボレーションには「変化を制御できる場合」と「制御できない場合」があるという。

 加えて、立場を異にする関係者が目的に合意し、協働して計画を立てて実行する従来型のコラボレーションは、前者の場合にだけしか有効でないこと、またこのような幸運な状況は現実には極めて稀(まれ)であることを実践で学んだと打ち明ける。人は変化することが嫌いなのではなく、変化させられることが嫌なのである。エリートたちが決めた実施計画が現場に下りてくるタイプの組織変革やリーダーシップがうまくいくわけがない。

 特に、政府対ゲリラ対犯罪組織のような敵とのコラボレーションともいえる極端に困難な状況では、目的の合意はおろか、他人の行動を支配できず、変化のプロセスを制御することも期待できない。そのようなとき、コラボレーションはどのようにして可能となるか?

 著者によれば、困難な状況下におけるコラボレーションは、必然ではなく、関係者が「状況を変えねばならないし、変えられる」という認識を共有しているときのみ可能となる選択肢の一つであるという。従来型のコラボレーションが通用しない状況下でのそれを、ストレッチ・コラボレーションと呼び、従来型のコラボレーションとは三つの点で異なるという。

 まず、協働する相手との関わり方では、対立と関わりを交互に使う。次に、チームによる取り組みの進め方は、事前に定めずに試行錯誤を繰り返す。さらに、関係者は、自分自身の役割(状況との関わり方)で、常に当事者(内部者)として共創せねばならない。

 職場でも社会でも、ともすれば絶望的にならざるを得ない、困難な問題や状況が多い昨今、敵ともいえるような他の当事者たちと協働して事に当たろうとする勇気を与えてくれる本である。

(選・評/早稲田大学ビジネススクール教授 平野雅章)