株式レポート
6月6日 18時0分
マネックス証券

失われた30年で失ったもの - TOPIX バブル崩壊後の安値更新の意味 - 広木隆「ストラテジーレポート」

バブル崩壊後の安値をつけたTOPIX

週初4日の東京株式市場では東証株価指数(TOPIX)がリーマンショック後の2009年3月につけたバブル崩壊後の安値であった700ポイントの大台を割り込み、28年半ぶりの安値水準に下落した。世界の金融市場では欧州債務不安が一向に払拭されずくすぶり続けている。欧州景気が弱いのは当然のこととして、中国やインドなど新興国の景気も減速気味だ。そこへきて米国の雇用統計が市場予想より下ぶれし米国景気の回復にも停滞感が鮮明となった。こうなっては世界経済全体の先行きに減速懸念が台頭するのも無理はない。先週末にはニューヨーク株式市場が大幅安、ダウ平均が年初来安値をつけた。「フライ・トゥ・クオリティ(質への逃避)」から米国債が買われ、10年債利回りは1.5%を下回る水準まで低下した。こうした世界的なリスク回避の流れに東京市場も抗し切れず、世界同時株安に巻き込まれた、というのがTOPIX安値更新の背景である。

欧州不安、世界経済減速懸念、グローバルなリスクオフ – そうした外部環境の悪化が日本株市場下落の背景だ、というのは相場解説として直感的に理解しやすい。それでは、しかし、TOPIXがリーマンショック後の安値を下回り、28年半ぶりの安値まで低迷していることの直裁的な説明にはならない。2009年3月がリーマンショック後の安値というのは世界の株式市場にとって共通である。そのリーマン後の安値水準を直近の株価下落で下回ったのはギリシャやスペインなど南欧諸国のみである。危機の震源地となっているそれら諸国並みに日本の状況は悪いのだろうか。

危惧されている最悪のシナリオ – 例えばギリシャが無秩序にユーロ圏を離脱し、スペインの金融不安が収集のつかないレベルに拡大、リーマンショックの再来とも思われるような極度の信用不安、信用収縮を招く – といったような事態を市場が恐れ、それを織り込みに行ってこの安値に沈んだとするならば、米国株の水準はどう説明されるのか。ダウ平均は下げたとは言え、未だに12,000ドルの大台を割ってはいない。2009年3月につけたリーマン後の安値、6,547ドルから見れば、85%高い水準にある。ざっくり言えば、ほぼ倍だ。債務危機に揺れる欧州の中核国であるドイツのDAX指数は2009年3月につけたリーマン後の安値、3,666ポイントに対して現在5,969ポイント、実に6割超も上にある。

リーマンショック並みの激震が金融市場を襲うとすれば、米国もドイツも無傷ではいられない。それはグローバルなカタストロフィ(破滅)となるだろう。リーマンショックがそうであったように。であるならば、日本株式市場(と一部南欧諸国)だけが、リーマン危機再来を織り込んでいるというのは、いかにも説明がつかないではないか。

ダウ平均は5月初めの高値13,279ドルから今週初の年初来安値12,101ドルまで8.9%下げた。対するTOPIXは昨年度末の高値872ポイントから今週初につけた695ポイントまで20%の下落である。下げの期間も下落率も米国の倍だ。しかし、ただこれだけではTOPIXがバブル崩壊後の安値を更新した理由にはならない。TOPIXのバブル崩壊後の安値というのは28年半ぶりの安値である。一方、ダウ平均が下げ相場に転じる前、5月につけた高値はリーマンショックの前年、株式市場がグローバルな好景気を謳歌していた2007年の年末につけた高値以来4年4カ月ぶりの高値だった。つまり株価の水準が、まるで違うのだ。その極めて当たり前の事実に改めて愕然とする。

20年かかったバブルの後始末

では、ここからが本題だが、なぜ日本の株価はここまで安値に放置されているのだろうか?その謎を解く鍵は主要企業の株価にある。TOPIXがバブル崩壊後の安値をつけた4日、東京市場の話題は1,000円の大台を割ったソニーの株価だった。1,000円の大台割れは株式分割を考慮すれば1980年8月以来32年ぶりi。パナソニック、シャープも30数年ぶりの安値をつけている。NECも1980年以来となる100円の大台割れ目前である。コモディティ化したプロダクツにこだわり、収益低迷から抜け出せない電機メーカーの不振だけを取り上げるつもりはない。証券市場の低迷にインサイダー問題が重石となっている野村HDの安値は昨年秋だが、その時点で37年ぶりの安値。日経平均採用の老舗企業、日本板硝子は41年ぶりの上場来安値更新だ。このほかにもマツダ、関西電力、富士フィルム、リコーなど名門企業が続々と歴史的な安値をつけている。

もちろん、これらの企業が「日本株式会社」全体を代表しているわけではない。むしろ、かなり極端な、悪い例である。しかし、時価総額加重で算出され、東証全体の株価を反映するTOPIXが28年半ぶりの安値をつけたことは、「日本株式会社」全体で見ても株価はざっくり言って30年前に逆戻りしたと言っていいだろう。

結論から言えば「日本株は20年かけてバリュエーションの調整を行った」ということである。前回のレポート「Is Greed Good? (強欲は善か?)」で80年代後半のバブル相場に言及したが、その時代に膨らましたバブルの清算を完了するのに20年かかったのだ。日経平均の史上最高値は1989年12月の大納会。1990年代、そして2000年以降の都合20余年をかけて、バブルが膨らむ前の、30年前の株価水準に戻したということである。

フェアバリュー(理論株価)と市場価格

話は変わるが、市場でついている株価は必ずしもフェアバリュー(理論株価)を正しく反映していない。むしろ、フェアバリューから乖離していることのほうが多い、と述べた(5月24日付レポート「下値が見えない相場にどう対処するか PART2」)。そこでは、「ある一定期間における株価の値動き、その振幅の幅を100としたとき、株価がフェアバリューのベルトゾーンに収まっているのは20くらいだろう」と書いた。その時、説明に用いた図がグラフ1である。



しかし、この図も市場価格とフェアバリューの関係を正しく表してはいない。フェアバリューがここで描かれたように、右肩上がりの直線であるならば、日本株の投資家はもっとハッピーだったはずである。より正確に表現すれば、フェアバリューのほうも、ぐねぐねと曲がりくねったものとなる(グラフ2)。



フェアバリューをどう定義するかは、いろいろな投資理論があり一義的には決められないが、企業の利益、純資産、キャッシュフロー、etc. そうしたものを基準とすることに大きな異論はないだろう。仮に、ここではフェアバリューとは企業の利益に基づいて導き出されるものとしよう。その場合でも、フェアバリューのラインはグラフ3のように激しく起伏した形状の軌跡となるだろう。



実は、グラフ3のラインは、1980年からの東証1部上場企業の経常利益額の推移である(グラフ4)。



PER算出の基となる純利益は経常利益に特別損失・特別利益が加わり、より変動が激しい。市場全体で赤字になることもしばしばあった。そのためここではより本質的な企業の稼ぐ力を見るために経常利益を使ったが、それでもこれだけ激しい浮き沈みを繰り返してきたのである。この間の株価の推移を経常利益に重ねたのがグラフ5である。



80年代のバブル期には利益も伸びたが、それを遥かに超える水準まで株価が買われた。90年代に入ってバブルが弾けると、株価も下落したが業績もまた低迷した。ここで指摘したいのは、この時期の株価の調整が不十分だったことである。企業業績見合いでは、もっと調整して然るべきだったのだ。ところが、バブルのピークからの下げ方があまりにも強烈だったため(山高ければ谷深しで当然のことなのだが)、慌てた当時の政府はPKO(Price Keeping Operation、株価維持政策)を行い、株価を人為的に買い支えた。そうした事情もあって割高な状態が解消されないまま、90年代が過ぎ、世紀末の前後、新たなバブル相場 – すなわちハイテク・バブルを迎えるに至ってしまったのだ。

グラフ6は東証1部の時価総額と東証1部上場企業の経常利益額を10倍したもの表示している。


例えば1980年の東証1部の時価総額は約80兆円。東証1部上場企業の経常利益額は8.6兆円だったから、これを10倍したものは86兆円でだいたい同じである。つまり赤い棒グラフで表した経常利益10倍という数値は、経常利益ベースのPER10倍のラインである。経常利益ベースのPERは10倍が適正という理論的な根拠はないが、少なくともバブル相場が始まる前の80年代初期は、その水準にあったということだけは言える。

このグラフには2000年代半ばまで割高さが一向に解消されずに株価が推移してきた様子がよく表されている。リーマンショックが起きる前年度、2007年度が上場企業の最高益だが、それだけの利益をあげてようやく時価総額は利益の10倍に一致した。ところがリーマンショックが起き、再び日本企業の業績が極端に悪化すると再び乖離が広がった。そして今期はようやく最高益だった2007年度の8割の水準まで経常利益は回復する見込みだ。その間、株価は低迷したままだから、利益が戻ってようやく再びバランスがとれる。これが日本株低迷の根本的な原因である。一言で言って、日本企業の稼ぐ力に見合った株価形成がなされていなかった。それを長い年月をかけて調整し、バブル発生前の1980年代初期の株価とバリュエーション水準に戻したということなのである。

ちなみに1983年から比べれば時価総額は約100兆円増えている。率にすれば7割増しだ。しかし、同時にこの間、株式数も7割増えている。時価総額を「1株当たり」に直した株価が当時と同じ水準なのはこうした理由による。

失われた30年で失ったもの

失われた20年とはよく言われるが、これでは失われた30年ではないか、と気が抜ける思いの読者もおられよう。筆者もまた強い脱力感に襲われている。前回も書いたが、学校を出て証券界に入って四半世紀。筆者の社会人人生の25年間はいったいなんだったのだろう、という思いにすらなる。

しかしものは考えようである。失われた30年で失ったものは「日本株の割高感」であると考えたらどうだろう。もうここから先は失うべきものは何もない。何度も言う通り、株価の大底なんて当てられない。欧州問題はじめ不透明材料が多く山積し、まだひと波乱もふた波乱もあるかもしれない。しかし、長い目で見れば、ここから下は誤差の範囲である。

日本株は長い時間をかけてバリュエーションの調整を完了しつつある。自動車のハンドルに喩えるならば「あそび」がまったくない状態だ。左に切れば左に、右に切れば右に、ヴィヴィッドに(的確に、クリアーに)反応する。業績を素直に反映する相場になったのだ。今期の企業業績は大幅な改善が見込まれている。株価は30年前に逆戻りしてバリュエーション調整の最終局面にある。こうしたことを冷静に考えれば、絶好の投資タイミングであると思われる。

弱気派の反論は、「欧州危機や世界経済減速で、肝心の業績改善の見通しそのものが疑問視されている」というものだろう。その点については、また改めて議論したい。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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