手塚治虫原作の不朽の名作「鉄腕アトム」がコンピュータ・グラフィックス(CG)映画となって、全米で来年公開される。英語名は「アストロボーイ」。製作を率いるイマジ・インターナショナル(本拠地・香港)のダグラス・グレンCEOに、世界から見た日本アニメの魅力を聞いた。

ダグラス・E.グレン
ダグラス・グレン イマジ・インターナショナルCEO

――鉄腕アトムを選んだ理由は?

 アストロボーイの世界的な知名度もさることながら、ストーリー性の高さが現代にマッチすると踏んだからだ。

 創造した父親に捨てられるという困難に直面しながらも、強さと勇気、そして確固たるモラルのコンパスを持ち、自分の役割を見つけ、頑張り抜く。それは洋の東西を問わず、ヒロイズムの基本であると思う。

――日本のアニメ以外にも候補はあったのか。

 それこそアジアからアフリカまで世界中のコミックやテレビを見て回ったが、現代社会の苦悩を代弁しているという点で、日本のアニメに勝るものはなかった。

 そもそも私の仕事は、キャラクターを見つけることではない。世界中の人びとがアイコン(偶像)化できるヒーローのストーリーを探し出すことである。日本はまさにそうしたストーリーの宝庫だ。

 作家のローランド・ケルツ氏が著作『ジャパナメリカ』(ランダムハウス講談社)でおもしろいことを指摘していた。日本のアニメが描き出す世界は欧米のアニメのように甘くないというのだ。私も同感だ。主人公が直面する問題や折々に見せる感情表現はまさに現実社会さながらだと思う。

ASTRO BOY
英語名は「アストロボーイ」

――ただ欧米のヒーロー像と違い過ぎはしないか。

 確かに、欧米の作品は肉体的な強さ、日本は精神面の成長の過程を重視する傾向がある。しかし、私のかつてのボスだったジョージ・ルーカスの作品がそうであるように、双方のよさを合体させた成功例は多い。

 「スター・ウォーズ」の主人公、ルーク・スカイウォーカーがウィズダム(知恵)を求めて旅するストーリーは正しくその好例だ。翻って手塚治虫も少年期にディズニー映画を愛好していたと聞く。最高の作品は東西の邂逅によって生まれるものだ。