IBMによる買収交渉が破談に終わったサン・マイクロシステムズが、オラクルへの“身売り”を決めたことで、IT業界に波紋が広がっている。IBMによる買収話がお流れとなったのは、4月初めのこと。オラクルの発表は、その2週間後というスピーディーさだった。この間、サンの株価は下がり続け、経営破綻も免れないのではとの噂すら広がっていた。

 オラクルによる買収額は、IBMの提示額(70億ドル)を上回る74億ドル。しかもオラクルとサン両社の相乗効果が評価される中でサンの技術力が輝きを増し、「IBMはさぞかし後悔していることだろう」という発言すらIT業界の中枢から聞かれるようになってきた。何と言っても、オラクルは、サンを手中に収めたことでハードウェアを加え、完璧な垂直統合型システム・プレーヤーとなり、IBMの最大の強敵として立ち現れたからである。

 オラクルはここ数年、積極的な企業買収によって、企業向けソフトウェアのコマをひとつひとつ埋めてきた。2005年以来同社が買収したのは50社以上で、費やした額も400億ドルを超える。その結果、オラクルは従来のデータベースだけでなく、顧客管理(CRM)、企業パフォーマンス管理(EPM)などをパッケージ化した企業資源管理(ERP)プラットフォーム、ミドルウェア、インフラストラクチャーなどを一括して、いわゆる「ワンストップ・ショッピング」方式で顧客企業に提供できるようになっていた。

 これに加え、昨年はヒューレット・パッカード(HP)との提携によって、データの高速処理が可能なインテリジェント・ストレージを発表している。データ検索の処理時間が従来の10分の1に短縮されることを売りに、顧客企業にハードウェアまでも組み込んだシステムを提供するというビジネスに進出したのだ。

 そこへ加わるのが、サンの高性能プロセッサーやサーバーだ。しかも、サンは自社で工場を持たず、製造はアウトソースしている。大規模な設備投資なしにハードウェアの開発技術力を手に入れ、それと共に政府関連や金融、通信など、サンの既存企業顧客もオラクルに移行する。オラクルは、サン買収によって1年目に15億ドルの増収を見込んでいる。

 またサンが開発したサーバーOSのソラリスは、すでにオラクルのデータベース・ソフトの多くで利用されており、今後ソフトの統合が容易になるだけでなく、オラクルは初めての自社製OSを手にすることになる。そして、企業向けソフトのアプリケーションからデータセンター技術まで抑えることで、オラクルはいよいよクラウド・コンピューティングへ進出する基盤を整えたことになる。