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連載経済小説 東京崩壊
【第38回】 2012年6月11日
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高嶋哲夫 [作家]

3段階降格

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【前号までのあらすじ】
森嶋が長谷川設計事務所で会ったのは、日本最大のゼネコン新日本建設社長の室山勇次郎と、大手IT企業であるユニバ社長の玉井忠治だった。2人の男は村津が頼りにする首都移転成功のためのキーマンだった。村津は数日中に政府が首都移転について正式発表するだろと予想する。森嶋は村津から関係業界と政府をつなぐ窓口になってほしいと依頼され、快諾する。
森嶋が遷都にかかる時間を村津に質問すると、村津は総理の意向は6年だと答える。村津はまだ日本に余力があるうちに、ぜひとも遷都を実現しなければならないと意気込む。室山と玉井、村津の3人が首都移転についての話すのを、森嶋はただ聞いてるだけだったが、今後の先行きについて一抹の危うさも感じた。
室山と玉井が帰ったあと、森嶋と村津も六本木の事務所を一緒に出た。歩きながらの会話で、森嶋はユニバの玉井社長は村津の妻の従妹であること、また、村津は国会議員の殿塚が建設大臣時代に秘書をしていたことを知る。
村津と別れて森嶋は自宅へと帰った。マンション前まで来たとき、向かいのコーヒーショップから1人の女が飛び出してきた。理沙だった。理沙はインターナショナル・リンクが日本国債の格付けを3段階引き下げたことについて、森嶋が事前に何か聞いていたのではないかと問い詰める。森嶋は質問に答えるため理沙を自室に誘う。森嶋の説明を聞いて冷静さを取り戻した理沙は、朝刊用の記事を書くため社に戻るという。森嶋は理沙を送るためにマンションを出た。


第3章

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 タクシーが停まって、理沙が乗り込もうとした時、森嶋の腕をつかんだ。

 「あの人、空港で会った人でしょ」

 理沙の視線を追うと、マンションから10メートルほど離れて停まった黒いセダンから降りてきた長身の男が、森嶋に向かって手を振っている。

 「また、話を聞かせてください」

 森嶋は理沙をタクシーに押し込むと、運転手にドアを閉めるよう言って男のほうに歩いた。

 「いい女だな。俺好みだ。なぜ、お前の周りにはいい女が多いんだ」

 ロバートが森嶋の肩越しに手を振り始めた。

 森嶋が振り返ると、タクシーは走り出した。タクシーの窓から理沙が2人を見ている。

 「まだ用があるのか」

 「昼飯をごちそうする約束だった」

 ロバートはもっていた紙袋を森嶋に突き出した。

 「牛丼だ。一緒に食いたかったが時間がない。俺は車の中で食べる」

 森嶋は紙袋を受け取った。ずっしりと重い袋の中にはコーラも入っているはずだ。

 ハーバードではよく2人で、公園のベンチで、芝生の上で、また大学前の石段に腰掛け、ファストフードを食べたものだ。話したのは世界情勢と経済、そして女性についてだ。

 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

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