その夜、森嶋はハーバード時代の論文をまとめた。深夜、ロバートからの牛丼を食べ、コーラを飲みながら、昨日1日のことを考えた。あまりに多くのことが起こりすぎて頭は混乱している。

 数時間の睡眠の後、役所に行く前に、パソコンでテレビニュースを観た。

〈昨日夕方、インターナショナル・リンクは、日本と日本国債の格付けを一気に3段階下げると発表しました。この発表を受けて日本政府は、一方的な見方であり、日本経済の実態を反映していないと総理自らがインタビューに応じています。しかし市場は小幅ながらこの発表に反応し、外国為替相場は円高、日経平均株価は下落が予想されています。市場開始までまだ一時間ほどありますが、警戒感が働いています〉

 理沙の言葉通り、その他のチャンネルも朝のニュースはインターナショナル・リンクによる日本と日本国債の3段階降格の話題が中心だった。

 しかしほとんどの経済学者が、影響は小さいと答えているのが印象的だった。

「大丈夫なの」

 森嶋が首都移転チームの部屋に入ると優美子が寄ってきた。

「熱が出たんでしょ。総務の友達が教えてくれた。帰りに寄ろうかと思ったけど、寝てると悪いと思って」

 優美子からの電話を森嶋が一方的に切ったことはおくびにも出さない。

「軽い風邪だった。1日寝てたら治った」

「ウソはやめて。マンションにはいなかった。あなたが仮病を使ってまで休む理由って何なの。言わないと、ウソをついて休んだことを言いふらすわよ」

 留守電に入っていた非通知着信のいくつかは、優美子だったのか。10回以上あった。しかしわざわざ非通知にすることはないのに。