平成時代が終わり、令和時代が幕を開ける。同時に働き方改革関連法が施行され、日本人の働き方も新しい時代を迎えそうだ。とはいえ、景気が回復したとは言い難く、明るい話題ばかりではない。「何をしたいのかわからない」と悩む就活生も、「このまま今の会社にいていいのか」と悩む社会人も少なくないだろう。
 そんな悩みを解決する本が、ダイヤモンド社より刊行された。『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』である。倒産確実と言われていたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を、わずか数年で世界第四位のテーマパークにまで導いた稀代のマーケター・森岡毅氏の著書である。
 森岡氏は、自分自身のキャリア構築にマーケティングの手法を取り入れることで成功してきたという。そのノウハウを巣立ちゆく我が子のために書きためていた。そんな「森岡家の虎の巻」が惜しげもなく公開される。
 子の成功を願う親の想いで綴られた、マーケティングの手法で論理的にキャリアの構築法を説いた前半、そして逆境に追い込まれ、ヒリヒリする痛みの中でどのように失敗や不安と向き合ってきたかを語る後半。右脳と左脳を激しく揺さぶられるような、ダイヤモンド社が自信をもってお届けする10年に1冊の傑作ビジネス書である。
 本連載では、森岡氏の実戦に基づく独自のキャリア構築法をうかがっていく。どうやって自分に合った仕事を見つけるのか、どうやって能力を伸ばしていくのか、悩める就活生や社会人はぜひ参考にしていただきたい。
 第3回のインタビューでは、就活生だけでなく社会人にとっても必読の面接の必勝法について聞いていきたい。

面接とは、自分を印象付けるゲームである<br />森岡毅インタビュー[3]

ボランティアをやってましたと
アピールする学生たちにうんざり

――森岡さんは就活時代、面接に強かったそうですね。何か理由があったんですか。

森岡 空気読むのはあまり得意じゃないですけど、目的のためにどう勝ち筋を見つければ勝てるかっていうことを考えるのは大好きだったんですよ。私はチェスをずっとやってたんですね。将棋も結構やってて。ゲーム感覚で戦略みたいなことを考えるのが子どもの頃から好きでした。面接に行ったらどういうパターンの展開があり得るか、チェスとか将棋と同じように展開を考える。普通の人は、Aというアクションが起こったら、これに紐付いてBが起こって、Cが起こって、というのを手前から順番に考えるものです。でも将棋とかチェスをやってる人というのは、勝ちのゴール、チェックメイトの場面から逆算して最初の一手を考えるんですね。これはもうトレーニングなんで、できる人はできるんですよ。
簡単に言うと、こいつすごいなと思ってもらえるためには、どんな勝ち筋があり得るか、ゴールの方から考えるんですね。チェックメイトの場面は何パターンあり得るのかを考えて、そのゴールを実現するために必要な一手を順番におろして考えて、そうやってまず部屋に入って、最初に何をすべきか、今何を言うべきかを考えるわけです。

 もし勝ち筋が、すごいバイタリティーがあって突き抜けてると思われるか、めちゃくちゃ頭がいいと思われるか、このどちらかだと思ったのならば、そう思わせるためには、どういう手を打てばいいかを考える。どういう話がとんできたら何を言おうか、どの持ちネタをぶち込もうとか事前に考えているわけです。周りから突き抜けるための戦略ですね。どう言うかは考えない。それは緊張しちゃうので。どう言うかを考えちゃダメですね。あれは出たとこ勝負のほうがいいんです。むしろ自分が強調してアピールしたいことのために何を言うかを事前にしっかりと考えておく。

 たとえば、私は阪神大震災のときに就活をしたので、あの震災後は生活していくために、地域住民はみんなボランティアをやっていたんですよ。衣食や生活必需品の配給の手伝いとか、瓦礫に埋もれた人を動かすとか、いろんなことをみんな大なり小なりやっているわけです。ところが多くの学生さんは面接でみんなボランティアの話しかしないわけですね。「私、震災で、こんなことしました」とか言ってる。しょうもないなと私は思って聞いていたわけですよ。関西の学生には、よくあるパターンで、半分ぐらいがボランティアの話なんですよ。私の勝ち筋の前では、そんなのは勝負にならないわけですよ。
そういうときには、きっと面接官が退屈しているので、私の過激な話、バックパッカーで世界中を旅して、ボコボコにされて荷物も奪われて、国立公園まで徒歩で戻って、皿洗いのアルバイトをしてバス代稼いで大使館まで行った話とかのほうがウケるわけです。東南アジアでは、蟻が浮いたスープとか飲みながらの貧乏旅行。本当にお金がないなかで、デング熱にかかって入院して死にかかったけど死ななかった話とか。そっちのほうがウケる。要は、溢れすぎて制御しきれないバイタリティーや行動力をどう制御するのか、結構苦労した学生時代でしたという話のほうが、行動力があるとか、バイタリティーがあるとか、タフだなとか思わせられる。……というようなことを戦略的に考えていたから私は面接に通ったんでしょう。

 他にも、今のこの場で彼らが求めているのは、おそらくどれだけ問題解決能力が高いのか、分析視点がいいのかということだなと思えば、たとえば「誰も知らない答えにどう辿り着くのかを考えるのが大好きなんです」とタイミングをみて話す。どういう切り口でその答えに辿り着くのか、電柱の本数でも、郵便ポストの数でも、蟻の匹数でも、何でも出題してもらって、未知の数量に到達するアプローチを閃光のような速さで実際に推理してみる。本当はそういう考え方のパターンを予め頭の中に7つくらい分けているのですけど、全部話すと申し訳ないので1個だけ、こういう思考パターンで電柱の本数を考えますと……とやるわけです。答えが合っているかどうかは重要ではなく、そういう思考のアプローチができることが相手にとっては重要なわけです。そういうふうに「何のために、何を言うか」というカードを揃えておいて、場に応じて、今求められているカードを引っこ抜く。それが結果的に、出すカード、出すカード、他の学生よりも目立って見えた。その勝ち筋を考えていたから、たぶん面接には勝てたんだと思うんですね。

 就職活動する限りは行きたい会社に内定をちゃんともらって、やっぱり選択肢を確保しなくちゃならないじゃないですか。だから面接の勝ち筋を考えないといけない。そしてその本質は「何を話すか」であって、「どう話すか」ではないと思っています。正直言って、面接受けるまでの間に、自分自身がどんなことをしてきて、どんな人間なのかという歩みそのものにインパクトがないとやっぱり埋もれてしまいますよ。でも、それは就職活動が始まるときに慌ててもしょうがない。やるべきことは、今回の本『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』の中でどうやるか詳しく書いたんですけど、たとえばゲームにめちゃめちゃこった人とか、部屋の中で青春を過ごした人とかが仮にいたとしても、自分がなぜそれに熱中したのかということを理解して、それがTやCやLなどにどうつながるのかという論理を立てて自分のブランドを設計して勝負すればいいんです。

参考記事

自分を「ブランド」にする技術
森岡毅インタビュー[2]