ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第100回は、コンサルタントであり、『WHYから始めよ!』で著名なサイモン・シネックらによる『FIND YOUR WHY』を紹介する。

あなたの組織の、あなた自身の存在意義は何か

「あなたの会社の企業理念は何か?」と尋ねられたら、社内研修で叩き込まれたり、ホームページに書かれたりしている文章を読み上げることはできるかもしれない。しかし、「あなたはなぜ、その会社で働いているのか?」と聞かれたら、どう答えるだろうか。なぜその会社が、なぜその仕事が好きなのか。それをはっきりと言葉にできる人は、どれだけいるのだろうか。

『FIND YOUR WHY』の著者の一人であるサイモン・シネックは、『WHYから始めよ!』で「ゴールデン・サークル」を提唱して、大きな注目を浴びたコンサルタントである。シネックによるTEDのプレゼンテーションは、再生回数4000万を超えている。

 ゴールデン・サークルのフレームワークは、同心円で表現される3つの要素から成る。「WHY(なぜそれをするか)」を中心に、その外側に「HOW(どのようにするか)」、さらに外側に「WHAT(何をするか)」がある。そして書籍のタイトルに象徴されるように、あらゆる人と組織が、円の中心にあるWHY、すなわち存在意義(パーパス)に動かされるという。

 だが実際には、多くの人が「WHY」をないがしろにしている、あるいは見失ってしまっているのではないか。労働が日常の習慣に組み込まれていくことで、なぜその仕事をやっているのかを自問する機会は減っていく。自分が成し遂げたいことと組織の目標が一致してない事実を自覚しながら、知名度があるから、給料がいいから、安定しているからなど、そこに居続ける理由を無理やりつくり出している人もいる。

 組織も同じく「WHY」を軽視している。売上げや利益を上げることはもちろん重要だが、それ自体が目的化している会社は珍しくない。ただ、いまや労働市場における人材流動性は高まり、優秀な人材を確保し、自社に留めることはより難しくなった。ましてや、特にミレニアル世代と呼ばれる世代を惹きつけるためには、自社の存在意義に対する共感してもらうことが欠かせないと言われている(DHBR2019年3月号「組織の『存在意義』をデザインする」参照)。

 いまや個人だけでなく、組織にとっても「WHY」に目を向けることが不可欠の時代を迎えている。そうした中でシネックは、人と組織それぞれが存在意義を見出せる、または再確認するための方法論を記した。『WHYから始めよ!』がゴールデン・サークルの理論編だとすれば、『FIND YOUR WHY』は実践編という位置づけである。

『FIND YOUR WHY』に書かれているのは、単なるワークシートの共有にとどまらず、WHYを形にするためのポイントが順を追って具体的に記述されている点は特徴である。また、「何をやるべきか」だけでなく「何をやるべきでないか」が詳述されているのも有用だ。

 ただし、本書の第1章でゴールデン・サークルの概要を紹介しているものの、まずは『WHYから始めよ!』から読むことをお勧めしたい。存在意義を形にすることは、形式論や綺麗事ではなく、それ自体が個人と組織が価値を生み出す源泉になりうる。そう心から納得したうえで、『FIND YOUR WHY』を実践してみてはいかがだろうか。