「他には、経常収支が赤字定着化した場合よ。日本にとって今後、大いに可能性があるわね。例えば今後、原発停止による火力発電の増加と中東情勢のさらなる緊迫化により、輸入している石油とLNGの量と値段が増大して、貿易赤字が増加していく場合なんかがそう。優良企業の海外移転が進み、国内の貯蓄、純金融資産残高が減り、国内で国債を買い支えるのが困難となってくる」

 優美子はかすかに溜息をついた。

「そうなれば、日本国債のさらなる外国人比率が進む。彼らの多くはヘッジファンドなどの投機筋よ。儲けさえ出れば短期で売り抜けようとする。国の存亡なんて関係ない人たち。日本は国債の利率を上げざるを得なくなる」

 それに、と続けた。

「消費税増税法案の失敗なども引き金になる。財政破綻懸念からさらに格付けが下がると、日本国債のCDSスプレッドの上昇が始まる。日本売りのシグナルが出ると、いずれ国内の国債保有者も動揺し始める。日本人だって、自分の資産が減っていくのを指をくわえて見てることは出来ないわ。そしてさらに国債金利が上昇する。まさに、日本崩壊のスパイラルが始まるってわけ」

「通常なら、ここで日銀の介入が始まる。国債買い入れをして支えるだろう」

「通常ならね。でも、今の日銀は慎重すぎる。さんざん言われながらも、円の発行を極力抑えている。なぜか、異常なほどにインフレを恐れてるのね。デフレからの脱却を考えなきゃならないのに。自分たちにとって、理解不能なことが起こることを恐れてるんでしょうね。だから何もしない。市場に任せる、という言葉で乗り切ってる。自分たちの責任を最小限にしてるの」

「そして極めつけは、地震リスクで財政破綻が確実になった場合か。ヘッジファンドが一気に国債の空売りをしかける。つられて銀行などが国債の狼狽売りをして、一夜にして値を崩す。円・債券・株式のトリプル安。急激な日本売りによって国債が大暴落を始めるってことか。しかしCDSによって、ヘッジファンドに損失は出ない」

 優美子がそうだという風に頷いた。

(つづく)

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