株式レポート
6月12日 18時0分
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米国の日本化は起こるのか?〜債券市場のメッセージ〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

・昨晩(6月11日)の海外株式市場では、期待されたスペインの銀行救済策への疑念が浮上し、株式市場は反落、米国長期金利も再び1.5%台まで低下した。ギリシャのユーロ離脱阻止、通貨制度維持につながる財政統合へのドイツの行動、あるいはECBの金融緩和・流動性供給策などの対応策などが実現するまで、政策期待への思惑で一喜一憂するのかもしれない(6月7日レポート)。

・5月末以降、欧州債務問題に加えて、景気減速懸念の台頭で安全資産への資金シフトが進み、米国10年金利が歴史的な低水準に低下している。6月1日レポートで、米欧の長期金利低下について、短期の視点で「世界的な景気減速を織り込み金利が低下」と解釈できるが、一方長期の視点で「米欧経済がかつての日本と同様の状況に陥る」ことを意味しており、「異常な状況は長続きしない」という考えをお伝えした。

・一般的に長期金利の水準は、経済成長率とインフレ率で規定される。成長率とインフレ率をあわせると名目経済成長率(GDP)だが、これと長期金利水準はほぼ連動する(グラフ参照)。景気後退期の成長率の低下、あるいはインフレリスク・財政リスクに起因するプレミアムで乖離する期間は多少あるが、長期金利の水準は、概ねその国の名目経済成長率で規定される。


・米10年金利が1.5%台で推移し続けるとすれば、それは米国の名目経済成長率が今後10年先まで、2%以下で停滞し続けることを意味する。米国が戦後経験しない経済状況である。実際には、リーマンショク後の2010年から2012年1―3月まで、米国の名目GDP成長率は4%前後を保っているが、この状況が続かないことを米債券市場は暗示している。これは、1990年代後半以降の日本であり、ピムコのビル・グロス氏が言うとおり「世界の債券市場はターニング・ジャパニーズ(日本化)」が債券市場のメッセージである。

・問題は、米国が、かつての日本と同じ経済状況に陥るかということだろう。通常、景気変動を除いたトレンド成長率(潜在成長率)、言い換えれば「経済成長の実力」は簡単に変わらない。技術革新などがもたらす労働生産性は、10年程度のタイムスパンでは僅かしか変らないからだ。そして、日本のような人口動態の変化による労働力人口減少で、米国の場合、経済成長の実力は大きく押し下げられない。このため、米国では+2.0〜+2.5%程度がトレンド成長率だとみなされている。

・米国で、日本のような極端なトレンド成長率の低下が起きないとすれば、足元の長期金利の低下は、米FRBが目標として掲げる2%のインフレ目標実現に失敗し、インフレ率がゼロまで低下することを意味する。1990年代後半以降の日本と同様、資産バブル崩壊への対処を誤り、デフレに陥り趨勢的に2%以下で名目GDPが推移するということである。

・かつて、日本において10年金利が1.5%の水準を初めて下回ったのは、1998年8月だった。当時は日本の大手金融機関の破綻が相次いだだけではなく、経済の縮小とともに、消費者物価や賃金上昇率が下落に転じる「デフレスパイラル」が始まっていた。一方、現状、米国の消費者物価は前年比+2.0%前後で、デフレスパイラルの状況にあった当時の日本のような状況とは大きく異なる。

・米欧の債券市場は、バブル崩壊以降の日本の経験を前例に、欧州・米国も今後そうした状況に至ることを想定し始めているのかもしれない。ただ、先に説明したとおり、(1)トレンド成長率(=経済成長の実力)、(2)インフレ率の状況、をみれば米国経済はかつての日本と異なる部分が多い。当面は欧州問題の行く末で一喜一憂するだろうが、米欧債券市場が示す異常な価格形成は長続きしないと考えている。


(チーフ・エコノミスト 村上尚己)

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(マネックス証券)


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