経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第7回】 2012年6月19日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【宮台真司氏×武田隆氏対談】(前編)
オンラインの擬似的な親密さを「リアル」にする方法

いまやアメリカでは、フェイスブックで浮気の証拠が見つかって別れる“フェイスブック離婚”まで出てくる時代。オンラインといえども実名性の高い環境では、私たちは自分が求められる役割をこなそうとして「ちょっといい自分」を表現せざるをえなくなり、結果的に疲れてしまう。かといって、匿名性の高い環境にもそれはそれで課題がある。信頼関係が築きにくいのだ。
かねてより、「オンラインでの匿名性を媒介にした擬似的な親密さは、あくまで擬似的でしかない」と指摘していた社会学者の宮台真司氏。今回はその宮台氏をゲストに迎え、オンライン上でも「深いリアリティ」に触れられる仕組みづくりの可能性について考えてみたい。

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フェイスブックで、望ましくない情報の集中砲火を浴びる

武田:オンライン・グループインタビューというリサーチ手法があります。インターネット上に参加者しか見ることのできないクローズドな部屋を作り、長期間にわたってあるテーマの質問に答えてもらう。消費者の本音を引き出すためのリサーチ方法です。

 最近、これを海外で試験的に展開しています。アメリカ、オランダ、インドの3ヵ国でフェイスブックの利用実態を調べたのですが、アメリカとオランダの40代は「人間関係に疲れる」という理由で、フェイスブックから離れ始めているようでした。

宮台真司(みやだい・しんじ)
社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。1959年3月3日仙台市生まれ。京都市で育つ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。権力論、国家論、宗教論、性愛論、犯罪論、教育論、外交論、文化論などの分野で単著20冊、共著を含めると100冊の著書がある。最近の著作には『14歳からの社会学』『〈世界〉はそもそもデタラメである』などがある。キーワードは、全体性、ソーシャルデザイン、アーキテクチャ、根源的未規定性、など。

宮台:アメリカでは、フェイスブックで浮気の証拠が見つかり別れる「フェイスブック離婚」が話題です。日本でも、僕の周囲には、勝手に過去の写真をタグ付けされて困っている女の子も多く、フェイスブックからはどんどん撤退していますね。

武田:宮台さんは以前この件に関し、「ロール・コンフリクト」(自分に与えられた役割をこなすことができず葛藤すること)という言葉で説明していらっしゃいました。求められる役割を演じようとするなかで、ちょっといい自分を表現せざるをえなくなり、疲れてしまう。調査結果から、そんな一面も垣間見られました。

宮台:そうでしょうね。もともとプライバシー権は、住居不可侵権から発展したものです。背景には、見せたくない自分を隠し、見せたい自分を見せる、自己情報制御の発想があります。自己情報制御には時間や労力や金銭的なコストがかかるので、コストとベネフィットを比較して、どの程度まで自己情報を制御するべきか、各自が判断しているわけです。

 ところが、フェイスブックのようなメディアを利用すると、先ほどタグ付けの話もありましたが、自分に関する望ましくない情報が、集中砲火を浴びたように勝手に自分のまわりに降ってくるんです。その火の粉を払うには大きなコストがかかります。取引コストを減らすためのインターネットだったはずなのに、フェイスブックを介在させたほうが、取引コストが大きくなるという本末転倒なところがあるんですよ。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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