医療の効率化を目指す「特定看護師」
理想と現実との間に横たわる“危うさ”

「“特定看護師”って、そんな話になっているのですか。想像しただけで、ぞっとする……」

 医師が行なう医療行為をどこまで看護師に拡大するか――。

 一般市民はもちろん、現場の看護師の多くが、その議論の中身について詳しくは知らない。現段階で検討されている内容を伝えると、助産師で看護師でもある竹原道子さん(仮名・40代)は、身震いする仕草を見せた。実際、彼女の腕には、鳥肌が立っていた。

 詳しくは後述するが、厚生労働省は看護師の業務を拡大するため、2009年から「特定看護師」(仮称)という制度の創設を目指して、急ピッチで話を進めている。

 看護師の地位向上やキャリアアップを図るため、看護師の職能団体である日本看護協会が、制度創設について厚生労働大臣などに強く要請してきた。業界では「医師の養成には時間も費用もかかることから、医師不足を簡単に補いたい国と、看護師の地位向上を図りたい日本看護協会の思惑が一致した」とも言われている。

 2011年11月には名称を「看護師特定能力認証制度」(以下、認証制度と略)と改め、骨子案が示された。そして、今まさに、看護師に許される特定の医療行為を指す「特定行為」の中身が検討され、今年度中にも結論が出る見込みだ。2011年度からすでに「看護師特定行為・業務試行事業」が行なわれており、早ければ、同制度は来年度からスタートする。

 もちろん、医師不足の解消や看護師のキャリアアップを図る取り組みは重要だ。制度がうまく機能すれば、高齢患者が急増する世の中の医療ニーズに迅速に応えられるようになるし、そこで働く看護師の意識を高めることにもつながる。

 しかし現状を見ると、「認証制度」の創設にはまだまだ議論を尽くさなくてはならない危うさがある。

 これまで連載で触れてきたように、ただでさえ疲弊している看護の現場で、業務を拡大することについて疑問の声は大きい。行政の理想と現場の実情が、乖離している感が否めないのである。