牛丼の競争が熱を帯びてきた。松屋が12月3日に牛めしの並盛りを380円から320円にするや、ゼンショーのすき家が7日、牛丼並盛りを330円から280円に値下げした。両社とも、11月に期間限定で行なった値下げ効果に自信をつけての取り組みだ。

「スーパーなどの低価格弁当やセルフうどん店など、ワンコイン(500円)で食べられるモノが増えた」(鮫島誠一郎・いちよし経済研究所主任研究員)。5月から直近11月まで、既存店の売上高は大手3社共に前年割れが続く。牛丼には、競争力のテコ入れが迫られているのだ。

「(60円の値下げで)もう一度、牛丼に振り向いてもらいたい」(佐藤雅敏・松屋フーズ取締役)。松屋の値下げ原資は、期待される客数増によるものだけではない。定食などに比べてオペレーションの容易な牛めしの売上比率を上げ、人件費を削減していくという。

 すき家の280円は、2001年の「デフレ宣言」下ですき家や吉野家が設定した牛丼安値タイ記録(期間限定を除く)。100%新米コシヒカリを使うなど、「グレードもアップさせた」(ゼンショー)自信作だ。直近の店舗数は、01年の約4倍の1352店。そのほか、グループのバイイングパワーを強みに低価格を実現した。

 一方、吉野家は380円に価格を据え置いている。“速い、うまい、安い”の吉野家にとって安さは重要だが、値下げが難しい特有の事情がある。大手3社で唯一、使用牛肉が100%、「コスト高」(業界関係者)な米国産牛肉なのだ。BSE(牛海綿状脳症)発生後、日本は安全性を考慮し、米国産牛肉の輸入再開時、“20ヵ月齢以下”とウシの年齢に独自の条件を課した。これは他国向けの標準である“30ヵ月齢”よりも若いため、日本向け作業ラインが必要で、それだけ米国産は高くなる。

 また、広大な牧場で飼育する米国では正確な年齢がわからず、実際には17ヵ月齢程度のウシが出荷されることも多い。確実に条件に違反しないための予防策だが、若いウシは肉付きが悪く、結果的に割高になる。

 輸入再開直後よりは安くなったとはいえ、牛丼に使われる部位の市場価格は今日、280円が可能だった01年当時の2倍強もする。牛丼の売上比率が55~60%を占める吉野家。売上数量増が未知の現段階では、値下げの負担は重い。

 吉野家が米国産牛肉を使い続けるのは、ひとえに「110年続く伝統の味を守るため」(吉野家)だ。ただし、吉野家には「こだわりのある客がいちばんついている」(佐藤・松屋フーズ取締役)と同業他社ですら一目置くブランド力がある。既存店実績で見る三社の実力は拮抗。値下げをしない吉野家は、ブランド力で勝ち抜くことができるだろうか。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

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