有給取得者に奨励金を払うという企業が登場しました。有給取得者に奨励金ーー良い施策のようにも思えるが、社内の人事施策のバランスを崩す副作用もはらんでいる。「良い施策だから」という単純な理由で導入するのではなく、他の施策とのバランスや目的の一致を忘れないように設計しなければならないのだ Photo:PIXTA

有給休暇取得が義務付けられたところ案の定、有給休暇取得に奨励金を出す企業が現れた。給与や賞与で労働の対価を支払う半面、労働しないことに手当を支払うこの奨励金は、使い方を間違えれば会社を壊すことになりかねない。(モチベーションファクター代表取締役 山口 博)

有給休暇を取得した社員に
奨励金を払う企業が登場した

 働き方改革関連法が4月から施行され、残業時間月45時間、年360時間の上限規制とともに、有給休暇取得について年5日以上の義務化がスタートした。いずれも、違反した事業者に6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される。罰金の金額は、決して大きいわけではない。「違反を摘発されたら、罰金を支払えばよい」という企業がないことを望むばかりだ。

 なぜ、そのように思うかといえば、かつて支援した企業に、残業代未払いの企業があり、経営者に支払いの必要性を説くと、「労基署の臨検が入り、違反を指摘されて支払い命令が出たら、未払い残業代だろうが、支払い遅延の利子だろうが払えばよいだけだ」と即答されたことがあるからだ。その経営者は「まともに法律に従ってなどいては、経営などできない」と豪語していたが、わが国で事業を営む以上、日本の法律にのっとって経営することは最低限のことだ。

 こんなことを考えている中、有給休暇を3日以上連続して取得した社員に、年3万円の奨励金を支給する会社が出現した。その会社はホームページによれば社員数100人程度のようなので、最大で年間300万円の支出を見込んでいることになる。その企業からすれば、300万円という金額は大きな金額ではないのだろうが、違反して30万円の罰金を払えばよいなどと考える企業とは、真逆の取り組みだ。

 有給休暇を取得して、心身ともに健全な状態で生産性を上げるという働き方改革の趣旨を体現しているように思える。法律で定められているわけでもない奨励金を支払ってでも、有給休暇取得を奨励する、決然たる意志がうかがえる。

 しかし私は、この有給休暇取得の奨励金に大きな違和感を覚えている。給与や賞与は当然のこと、奨励金であっても、それは、労働の対価として支払うべきなのではないか。にもかかわらず、有給休暇取得で奨励金を支払うとは、労働しないことに対して手当を支払うという、労働の対価と相いれない施策であると思えてならないのだ。