兄貴は、グッと前のめりに、顔をこちらに突き出した。

「あのな、いっちゃん。神様は、相手を大切にして『人のためにお金を使い続ける』ことをした人間にはな、きちんと同じ分だけ返しよるねんて。それが証拠に、オレは、10~20代は、ずっと貧乏な中、それをやり続けてきたけれど、今になったら、バコーン、お金がやってきて、大富豪やねんて」
「はい」

 兄貴は、完全に、ニッと笑った。

「オレの場合はな、最初から見返りは当てにしていない。けれど貧乏だった昔も、今もな、ボーボーおごり続けとるわけや。たとえば日本にいるときから、そうや。メシでもなんでも、後輩が20人くらい集まっちゃっても、ずっとオレが全部おごり続けとるんや。すごいときなんかはな、おごりすぎて、給料日の3日後に、1ヵ月分の給料がなくなったで」
「マジですか、兄貴」

「『マジそれ!』やねんて。せやけどな、そうやって、金がないときは、会社に前借りしてでも、アルバイト炸裂してでも、後輩におごり続けたんや。でも、それがいろんな形に姿を変えて、必ず戻ってきている証拠に、今のオレが調子ぶっこいて、大富豪していられるねんて。せやからな、後輩がお礼を言わなかったからといって、後輩に腹を立てんことや。さっきも、言うたやろ?」

 兄貴は、ギラリと、こちらを見た。

「神様、絶対、見てるんやて」

 兄貴は、「のう?」と言うと、バフーと、白い煙を、口の周りにはき出した。

「いっちゃんな、『秘密のサンタ』って知っとるか?正体を隠したまま、28年間で、130万ドル(当時の約1億5600万円)を、見ず知らずの人に配った、ラリー・スチュワートっちゅう、実在の人物が、アメリカにおったんや」
「『秘密のサンタ』って、なんか、テレビで見たことがありますね」

「そや。テレビでも放映しとったな。あのな、ラリー・スチュワートはな、23歳のとき、会社が倒産してな、食べるお金もないのに、レストランでバコーンと食べてもうたんや。当然、お金が払えないわけなんやけれど、それを見た1人の男性店員がな、ラリーの横に来てしゃがむと、『落ちとったよ』と言うて、20ドル札(当時の約2400円)を差し出したんや。ラリー、そのお金で『お会計』をすますことができたんやな」
「それ、その店員さんが、お金をくれたのでしょうね……」

「その後、ラリーな、結婚して子どももできたんやけれど、警備会社を倒産させたり、セールスマン首になったりしてな、食べるお金に困るほど、うまくいかなかったんやな」
「はい」

「せやけど、ラリーな、とおりかかった公園でな、売店の女の子が大変そうなのを見ると、自分も困っとるのに、お釣りの中から『20ドル札』を渡すんや。『メリークリスマス』ゆうてな。その日は、なんとクリスマスやったんやねん」
「はい……」

 兄貴は「ここからがすごいで」と言うと、ニッと笑った。

「なんと、ラリーな、その足で、銀行へ行くと、自分の少ない貯金を全部おろしてな、困っている街の人たちに、20ドルをプレゼントしまくったんや」
「すごいですね…」

「その後、ラリーな、友人と長距離電話の会社を立ち上げて、必死のパッチで働きまくってな、また、クリスマスには、困っている人たちに、お金をプレゼントしたんやな。その金額は、年々、増えていったんやな」
「はい」

「これが不思議なことにな、毎年、毎年、お金をプレゼントすればするほど会社の業績が上がってな、ラリー、『大富豪』になっていったんや。やっぱりな…、絶対、神様見てるんやて」
「兄貴、いい話ですね」

 兄貴は、「まだ、続きがあるんやて」と言って、ニッと笑った。

「ラリーな、昔、自分に20ドル札をくれた、男性店員を訪ねてな、なんと、その店員に、1万ドル(当時の約120万円)の入った封筒を渡しにいったんや。この人かて、あげた20ドルが、1万ドルになって返ってきたんやな。でもな、その人もええ人でな、その1万ドルを、寄付しよったんやで」

「兄貴、さらに、ものすごく、いい話ですね」

「その後も、ラリーな、正体を隠して、毎年、毎年、寄付をし続けて、2007年、58歳で亡くなったんや。なんと、配った総額が、28年間で、130万ドル(当時の約1億5600万円)やで。それで、ラリー本人も、大富豪やねん。どや、いっちゃん、これ、オレが言ってることと、完~全に、一緒やろ?」
「はい、兄貴、爆裂にいい話です!実際にあった話とは、思えないです」
  兄貴は、バフーと、白い煙をはき出すと、完全に、ニッと笑った。