「兄貴、フェイスブックやメールだけだと、いったい、どうなるのでしょうか?」
  兄貴は、グッと顔を近づけて言った。

「フェイスブックやメールだけに頼っているとな、そのうち、人と会わなくなってしまうんや。一緒に酒なんか飲まなくなったりしてしまう。家族にも会わなくなってしまうかもしれん。本当は、日本人の伝統ではな、『盆・暮れ・正月』には、田舎、故郷に帰るのやて。それで、バコーン混んで、交通渋滞に見舞われるのがええんやて。せやろ?」

「会ったことのない人とでも、それこそ、世界中にいる誰とでもつながるのが、フェイスブックやメールの利点だと思うんですけど……、違うのでしょうか?」

「実際に会ったことがなく、『フェイスブックやメール上でのやりとりしかしたことがない相手』って、おるやろ?そんな相手は、『相手を自分ごとのように大切にする心(=つながり・絆・ご縁)』を持った『ホンマもんの仲間』であるはずがないんや。で、『ホンマもんの仲間』でなければ、その人のためになにかをしてあげたり、おせっかいを焼こうとも思わんで」
「……たしかに、おせっかいまで焼こうとは思わないですね」

 兄貴は、さらに、ズズズズッと、コピ(コーヒー)をすすった。

「せやろ?せやからな…、フェイスブックやメールは、『人と会うための、きっかけづくりのツール』と考えておかないと危険や。そうしないと、もう会わなくなるよ。会ってもいないのに会ったつもりになってしまうからや。本当や。このままだと、どんどん、疎遠を生むよ。『これで用が足りる』と錯覚してしまうからや、人は」
「はい」

「いっちゃんだってな、実際にバリ島に来てくれたからこそ、こうしてオレと親身に話せたり、カニを一緒に食べたりできるわけやろ。5600キロを旅してわざわざ会いに来てくれた人だからこそ、大切に思えるんやて。それが、フェイスブックやメールだけなら、こうはいかんやろ」
  兄貴は、「のう?」と言うと、ニッと笑った。

「あのな、いっちゃん。ウディ・アレンっちゅうな、アメリカを代表する「映画監督」兼「俳優」がおるんやけれどな。まぁ、『007』とかにも、出演しとった有名人やねん。そいつが、言うとった言葉でな、ごっつい、ええ言葉があるんや」
「兄貴、それは、どういう言葉でしょうか?」

 兄貴の目がギラリと光った。

『成功の80%は、顔を出すだけで手に入る』やねん。どや、これ、完~全に、オレの言うとることと、一緒やろ。ウディ・アレンも、『映画業界』の中で、『人と会うことの大切さ』を、痛感しとったんやろな。それとな、スポーツ界で最も影響力のあった代理人のマーク・マコーマックゆう人もな、『5分間の会議のために1万キロを旅する(※1)』と言うとって、やっぱり『人と会うことの大切さ』を、力説しとるんや」

 兄貴は、コピ(コーヒー)を飲み干すと、タバコを取り出して、ジッポーライターで火をつけた。それにしても、兄貴の「ヘビースモーカー」っぷりは、ハンパじゃない!

 クリックすればたやすく「友達として承認」されるとはいえ、兄貴的には、それは「友達」ではなく、あくまでも「友達候補」なのだろう。なぜなら、カンタンに知り合えた相手とは、カンタンに別れることができるからだ。
フェイスブックやメールで「友達」になった相手とは、「実際にちゃんと会ってみるのが基本」だと兄貴は言う。