ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
連載経済小説 東京崩壊
【第42回】 2012年6月20日
著者・コラム紹介バックナンバー
高嶋哲夫 [作家]

殿塚との密談

1
nextpage

第3章

14


「政治家の密談と言うと、料亭かゴルフ場と思っていました。まさか渋谷の居酒屋の一室とはね」

 森嶋が身体を縮めて座り直しながら言った。

 引き戸を閉めると他とは分離されるが、プライバシーが完全に守れるかどうかは分からない。隣の部屋との仕切りはベニヤ板1枚、窓もない3畳あまりの小さな部屋だ。

 村津も戸惑っている。入り口で殿塚の名を告げると案内されたのだ。

 店の表からは若者のざわざわした話し声と笑い声が聞こえてくる。表はカウンターとテーブル席になっている。部屋に来る時見た限りでは、客の大半は若者で、数組の若い家族連れがいた。

 森嶋は今日、仕事が終わってから村津についてくるように言われたのだ。そのとき、「殿塚先生に会う」とひとこと言った。

 「仕方がないだろ。殿塚さんの指定だ。こういう店は嫌いか。私はときどき来る。早苗に連れられてな」

 「そう言うわけじゃないです。ただ殿塚さん、いえ殿塚先生には不釣り合いかと思って」

 「お前は殿塚さんでいい。政治家といっても、へんにへりくだることはない」

 森嶋は銀座の中華料理店で会った殿塚を思い浮かべた。気取った政治家というわけではないが、それなりの風貌をした紳士だった。

 その時、引き戸が開き男が入ってきた。羽毛のロングコートにハンチングを被った男だ。薄いが色の入ったメガネをかけている。

 「待たせたかね」

 「我々もついさっき来たところです」

 

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
自分の時間を取り戻そう

自分の時間を取り戻そう

ちきりん 著

定価(税込):本体1,500円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
生産性は、論理的思考と同じように、単なるスキルに止まらず価値観や判断軸ともなる重要なもの。しかし日本のホワイトカラー業務では無視され続け、それが意味のない長時間労働と日本経済低迷の一因となっています。そうした状況を打開するため、超人気ブロガーが生産性の重要性と上げ方を多数の事例とともに解説します。

本を購入する
著者セミナー・予定
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

⇒バックナンバー一覧