政府による「デフレ宣言」によって、物価下落への警戒感が強まるなか、この12月1日に日本銀行(日銀)が臨時会合を開き、デフレ対策となる追加の金融緩和政策を打ち出した。主要な金利はそろって低下し「広い意味での量的緩和」は思いのほか早く浸透したようだが、当初マーケットは「物足りない」と冷ややかな反応を示した。翌2日に行なわれた鳩山総理と白川日銀総裁の会談では、両者の「デフレ認識は同じ」との考えが示されたが、日銀“肩透かし”の背景には、デフレ対策における「政府との駆け引き」が見え隠れしている。
現在、景気を下支えしているエコカー減税やエコポイントの政策期限が来年3月に切れた場合の景気動向が懸念されるが、このような政府・日銀の対策でデフレ状態からの脱却は可能なのだろうか。その真相について、RBS(ロイヤルバンク・オブ・スコットランド)証券エコノミスト 西岡純子氏に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

当初「物足りない」と言われた
金融緩和の裏にある日銀の思惑

西岡純子
にしおか じゅんこ/アール・ビー・エス証券会社 東京支店 リサーチ・アンド・ストラテジー・アジア・パシフィック チーフ・エコノミスト、ジャパン。京都大学経済学研究科 修士課程終了後、2000年4月に日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に入行。日本銀行(2002年-06年)、三菱UFJ証券(2006年-07年)、エービーエヌ・アムロ証券会社東京支店(07年-08年)。08年7月から現職。

――日本銀行は12月1日に開いた臨時会合で、デフレ克服に向けた追加の金融緩和策を発表した。なぜこのタイミングで発表を行なったのか?

 意外感のあるタイミングであったのは事実だ。これは推測の域を出ないが、スケジュール上から考えれば、「2日の鳩山首相との会談前に先手を打ちたかった」ということだろう。会談後に臨時会合を設けると、「日銀が後手にまわった」という印象が定着する恐れがあった。そこで、バレバレとはいえ、直前ながらもこのタイミングでの発表になったのだろう。

 また、臨時会合という異例なものを設けることによって、日銀が足元のデフレに対して何らかのコミットをするという姿勢を示す、アナウンスメント効果を狙ったことも1つだ。

――政府も11月20日、3年5ヵ月ぶりに「デフレ宣言」を行なった。同様に、このタイミングで発言を行なった理由は何だろうか?

 非常に異例なタイミングだったが、これもスケジュール上考えると、国債増発に対する伏線だと考えられる。「“デフレだから”来年度、新規国債発行額44兆円を守れない」と言い訳し、国際増発圧力に対する批判を牽制するものではないか。

日銀による追加金融緩和策
ひとまず効果あり

――日銀は追加の金融緩和策として「期間3カ月、超低金利の固定(年0.1%)で10兆円程度の資金を供給する」 ことを決定した。これをどのように評価しているか?

 緩和策の内容が発表される前のマーケットの期待は、非常に強かった。金利低下を見込んだ投資家の円売りにより、1ドル86円台半ばで推移していた円相場は、一時87円台前半まで下落したほどだ。しかしその期待と比較すると、出てきた決定は内容が少し限られており、マーケットは“物足りない”印象を受けている。実際、緩和策の発表直後には再び1ドル=86円台後半まで上昇し、下落幅が元に戻ってしまった。