新興国経済の勃興期に重なった、米国発の金融危機とそれに続く世界経済の混乱は、先進国中心のグローバルガバナンスの限界を浮き彫りにした。米国一極主義はもとより、IMF、世界銀行、G7といったグローバリゼーションを牽引してきた世界システムも制度疲労を起こし、今大きな変革を迫られている。この歴史的なターニングポイントで、世界は保護主義に走らず、新たなガバナンスの姿を建設的に模索することができるのか。シリーズでお伝えしてきた竹中平蔵・慶応大学教授と『日はまた昇る』の著者ビル・エモット氏の特別対談。最終回は、世界新秩序のあり方を巡って二人が激論を交わした。

竹中平蔵
「万国共通の現象とはいえ、政治家は金融をなかなか理解してくれない」(竹中平蔵)
Heizo Takenaka 慶応大学教授・グローバルセキュリティ研究所長 1951年和歌山県和歌山市生まれ。一橋大学経済学部卒。日本開発銀行などを経て慶大教授に就任。2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣。02年金融担当大臣も兼務。04年参議院議員当選。05年総務大臣・郵政民営化担当大臣。

竹中:ミスター・エモット、あなたはこれまでの議論で、リーダーシップの重要性に言及してきました。私が見るところ、米国の場合、ガイトナー財務長官、サマーズ国家経済会議(NEC)委員長、ローマー大統領経済諮問委員会(CEA)委員長、バーナンキFRB議長は現在の状況をよく理解している。ただ、問題は、下院や上院の議員たちが現状をきちんと認識しているかです。

 われわれには、悪い記憶が残っています。昨年9月に、下院が金融安定化法案をいったん否決したことです。確かに、(今回の景気対策法案は成立し)、オバマ政権のリーダーシップという意味では、最初の小さな成功となりましたが、今後(の議会運営)は本当に大丈夫なのか。万国共通の現象とはいえ、そもそも政治家は金融をなかなか理解してくれません。あなたは、オバマ政権のリーダーシップについては、どのように見ていますか。

エモット:私自身は、オバマにはそれなりのコンフィデンス(信認)を感じています。

 確かに、彼はエコノミストでも金融の専門家でもなく、法律家であり政治家であるわけですが、過去の危機に対処した経験を持つ専門家らの声に耳を傾ける必要性を理解していることを、最初から(その行動で)示してきました。バーナンキもさることながら、ガイトナー、サマーズ、そして経済再生諮問会議議長を務めるボルカー元FRB議長の存在がその証左です。

ビル・エモット
「景気対策法が成立した後は、金融への介入スピードをもっと速める必要がある」(ビル・エモット)
Bill Emmott 国際ジャーナリスト 英国エコノミスト誌で、93年から06年まで編集長を務める。日本のバブル崩壊を予測した著書『日はまた沈む ジャパン・パワーの限界』(草思社)がベストセラーに。『日はまた昇る 日本のこれからの15年』(草思社)、『日本の選択』(共著、講談社インターナショナル)など著書多数。

 ただ、確かに、議会がこの状況を本当に理解しているかどうかは心配です。議会の抵抗をオバマは克服することができるか、そこが評価の分水嶺となるでしょう。

 ガイトナーが当初、銀行システムに決定的な介入をすることに躊躇した理由は、オバマが景気対策法の成立を優先したかったためだと思っています。ですから、今後数週間で金融サイドへの介入がスピードを増し、もっと決定的かつ効果的なものとなることを期待したい。

 本当のところが分かるのはこれからですが、これが私の読みです。オバマは景気刺激策の成立にプライアリティを置きたかったし、景気対策法案に大きな変更が加わることなく議会を通したかった。しかし、彼は、事態の深刻さも、基本的に今何がなされるべきかも分かっていると思います。ですから、私はオバマにコンフィデンスを抱いています。