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攻撃は最大の防御(その2)
その背後にある論理

楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]
【第9回】 2012年7月19日
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 前回は、H&D(ハゲ&デブ)問題という僕の極私的な体験をもとに、「攻撃は最大の防御」という戦略の成功事例(?)の話をした。詳細については、「攻撃は最大の防御(その1):H&Dに対する僕の戦略」をご覧いただきたい(あまりにくだらない話なので、あらためてご覧いただくまでもない話かもしれないが)。

 続編の今回は、前回の事例をもとに「攻撃は最大の防御」の背後にある論理について考えてみたい。なぜ「攻撃は最大の防御」なのか。その理由は、コストに関するものとベネフィットに関するものとに大別できる。

防御のコスト

 もう一度、「攻撃は最大の防御」の前提を確認しておきたい。この話の前提は、すでに「防御」の必要が生じているということだ。つまり、すでに何らかの攻撃を受けている。攻め込まれている。そこにはこちらの問題なり制約なり限界がある。何らかの弱点が露呈している、という話である。

 こうしたネガティブな状況に追い込まれているときに防御一辺倒になるとどうなるか。防御にやたらとコストがかかる破目になる。なぜか。いったん防御に回ると、キリがないからだ。問題の本質が解決されることなく、際限なく防御のコストを払わなければならない状況に追い込まれる。

 極私的事例に戻ろう。まずH攻撃に対する防御。防御の手はいろいろと考えられるが、どれもそれなりにコストがかかる。育毛ブラシはそれほど高くないが、毎日のブラッシングとマッサージには手間暇がかかる。忙しい朝の時間に育毛ブラシでアタマをひっぱたいていると、なんとも暗い気持ちになる。心理的コストもばかにならない。しかも、成果との因果関係が不透明だ。「こんなことしていて効果があるのかな?」と半信半疑でハゲ頭をペタペタやっていると、ますます鬱々となってくる。

 これが育毛剤の継続的投与となると、ますますコストがかさむ。僕の脳内参謀本部がこのオプションを拒絶した理由もここにある。一回投与してカタがつくならやってもよいが、どの育毛剤の能書きをみても「継続的は力なり」といった話が満載だ(連中も商売なので、とにかく継続させようとする)。しかもいろいろなグレードがあって、何やら効き目がありそうな強力な育毛剤もあるのだが、目玉が飛び出るほど高い。一度アップグレードに手を出すと、次から次へと強力なのを求めてしまい、キリがなくなりそうでコワい。

 防御しながら弱点や制約や問題を克服し、反転に備えるという手もあり得る。ただし、これは二方向に同時にコストをかけるという資源の分散投資となるので、あまり筋が良い戦略とはいえない。しかも、比較的短期間で弱点を克服できればまだいい。当座の防御にコストをかける意味もある。しかし、それまでもそれなりにやってきて、それでも劣位にまわっているのである。すぐには解決がつかない事情があるわけで(H問題は現代科学でもどうしようもない)、その克服は容易ではないと考えた方がよい。

 そこでバリカンで丸刈りにしてしまい、失うものは何もない「nothing to lose状態」をつくる。こうして「攻撃は最大の防御」戦略に切り替えると、あらゆる防御のコストがたちまちにしてゼロになる。しかも、効果が出るのに時間はかからない。戦略転換をするだけで即座に手に入るメリットだ。

 D攻撃に対する防御でいえば、守勢に回る「D作戦」(ダイエット)は、それ自体ではあまりコストがかからないものの、心理的なコストが甚大になる。苦しい→でもガマンする→ときには耐えられなくてポテトチップスを食べる→後悔する→ますますストレスになる→さらに苦しくなる、という悪循環にはまる。

 しかも、D作戦に一定の成功を収めても、(1)運動がキライで、(2)シュークリームとスナックが大スキで、(3)加齢により新陳代謝は年々低下する、という僕の抱えている問題の本質は放置されたままだ。僕自身の性癖は何ら変わっていないので、D作戦の手を緩めると、すぐに攻撃が再開される。ようするに、ここでも防御にはキリがないのである。

 ことほど左様に、単純に守勢に回る場合と比べて、「攻撃は最大の防御」はきわめてコストの点で有利な戦略だといえる。

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楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]

1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。2010年5月に発行した『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は、本格経営書として異例のベストセラーとなり、「ビジネス書大賞2011」の大賞を受賞した。ツイッターアカウントは@kenkusunoki


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