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森達也 リアル共同幻想論

100円ショップと100円で1点の不思議な磁力

森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]
【第12回】 2008年8月21日
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 少し前の話になるけれど、海外で高名な画家の絵画の贋作騒動があった。このときは結局、鑑定によって贋作であることが証明されて、この絵の持ち主(会社などの法人ではなく個人だったと記憶している)は億単位の損害をこうむったと聞いている。

 確かに素人には本物と贋作との見分けなどつかないよなあ、と持ち主に少しだけ同情しながら(少しだけだ。だってそもそも何の実用性もない絵画などに天文学的なお金をかけることができる人なのだから)、ふと考える。

 この絵画の持ち主は、何を、どう、騙されたのだろう。

 投機目的で絵画を購入したという可能性は、ややこしくなるのでとりあえず除外する。純粋にこの絵画に魅力を感じたからこそ購入したのだとしたら、作者が誰であろうと、贋作であろうとなかろうと、持ち主にとってのその価値は変わらないはずだ。

 でもそうではない。絵画に限らず美術品や工芸品のほとんどは、作者が誰であるかが大きな要素となる。

 当たり前のことだとは思う。思うけれど、よくよく考えたら少しだけ不思議な気分になる。この場合の作者の名前はいわばブランドだ。付加価値ではあるけれど実質的な要素ではない。通常の商品の流通におけるブランドの機能は、見た目の差別化だけではなく、耐久性や使いやすさやメンテナンスなどを保証する意味合いもある。でも絵画や彫刻などの芸術作品においては、壊れやすさや賞味期限などを気にする人はいないし、実際にこれらは商品の属性ではない。

 文学や音楽などのジャンルにおいて、この作家ブランド主義はないことはないけれど、でも絵画や彫刻ほどではない。ここにはコピーや印刷という過程を経たときに商品の価値が変わるか変わらないかの問題も絡んでくる。

 ……などと愚にもつかないことをうだうだと考えながら、商品の価値とは何だろうとあらためて思う。

モノの価値が貨幣に
換算されるとき

 とここまで書いてから告白せねばならないが、僕は相当な経済音痴だ。仕組みがよくわかっていない。為替や金融などのメカニズムを本当に理解しているかどうかは怪しい。というか、たぶん理解していない。つい先日も1ドル100円を切ったとのニュースがあったけれど、これが円高なのか円安なのか、とっさにはわからなかった。輸出と輸入のどちらの産業がダメージを受けてどちらが恩恵を受けるのかも、しばらく考えないとわからない。だから不況という概念も、実のところよくわからない。

 そのレベルで考える。貨幣価値とは何だろう。モノの本来の価値が貨幣に換算されるとき、何がどのように変わり、そして何がどう残されるのだろう。

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森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。


森達也 リアル共同幻想論

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

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